ファミリーレストランのボックス席に一人で座っている、革命家くずれの、長髪の若い男が、嘘っぽい叙事詩を語る。
【長髪の男が語る嘘っぽい叙事詩】
「ガリレオの娘たち」
始まりの場所にはマリオとガリレオがいた
不定形の巨大なガリレオは日々、餌を求めた
すでに人の形であったマリオは日々、餌を与えた
ガリレオに
ガリレオに
円形の崖の上でマリオは走り、餌を獲る
足も触手もないガリレオは、餌を獲れない
ガリレオは脳なき脳で考える
「ガリレオは罠を仕掛けるべきだ」
ガリレオは分化する 消化器を 分化させる
分化させた消化器を崖の上の荒れ地に広げる
「これでこの崖の上に降りてきたものは
消化器に触れ
ことごとく消化されることになるだろう」
崖の上の荒れ地に広げられたガリレオの消化器
その罠に餌は引っかかったか?
否!
その罠にマリオは引っかかったのか?
否!
その罠に引っかかったのはガリレオ自身
飛ぶ鳥を喰おうとしたガリレオは
大きくゆらめき 自らの消化器の上に倒れた
マリオは自らに消化されたガリレオの上に
巨大な網をかぶせた
するとガリレオは、網の目から湧きだし
無数のガリレオの娘たちとなった
「開いてみよ。
歯ありて なか紅きことはなはだし」
最後の台詞のところで、なぜかファミレスにいるみんなが笑う。
「なにがおかしいんですか?」とSさんに聞くと、
「あれは徒然草の引用だよ。原文を読まないで、何を読むの?」
徒然草なら読んだことがあるけれど、そんな一節は覚えがない。