第238夜 『チュン・リーの冒険』
 プレイステーション・ソフト『チュン・リーの冒険』を、どこだかわからないショッピングモールにあるゲームセンターの隅っこで電気を盗みつつプレイしている。数台のUFOキャッチャーと『電車でGO』しかないこのゲームセンターには、私(太田)以外、誰もいない。
 『チュン・リーの冒険』はきわめて簡単なゲームだ。街場の警察官であるチュン・リーの父親を、遠くから空き瓶を投げて、当て、殺すところからはじまる。投げた空き瓶が後頭部にうまく当たると、警察官であるチュン・リーの父親は、数歩、よろめいたあと、「薔薇の名前」という言葉を遺して、ばったりと地面に倒れる。そこにチュン・リーがやってくる。チュン・リーは24ドットで構成されており、二等身である。二等身の簡素なチュン・リーは、何者かに殺害された父親を見つけ、父親を殺した者を見つけだして、復讐することを決心する。
 チュン・リーの父親を空き瓶で殺したプレイヤーは、プレイヤーの二倍の速さで動き回るチュン・リーからうまく隠れつづけなければならない。
 しかし、このゲームにはクリア条件というものがない。
 そのため、『チュン・リーの冒険』はクソゲーとして知られている。
 いまはほとんど市場に出回っていない。
 だが、『チュン・リーの冒険』を無性にやりたくなった私(太田)は中古でプレミア価格のついたこれを手に入れ、ゲームセンターの隅っこで電気を盗みつつプレイしている。

 最初の、父親を殺すところから、すでにバグが生じている。
 交番の前でうろうろしている父親(HP 6)と、交番の前で休めの姿勢で立っている父親(HP 8)に、父親が二重化している。どちらを倒すべきかわからない。とりあえず、HPの少ない敵から倒す、というのがこういうゲームの定石なので、交番の前でうろうろしている父親に向かって、コカ・コーラの空き瓶を投げつける。
 見事、空き瓶は警官の後頭部に命中する。
 そして、空き瓶を投げつけたのは、ゲーム上のキャラクターではなく、ショッピングモールにいる私(太田)そのものであることに気がつく。
 いそいでUFOキャッチャーの影に隠れると、24ドットで、二等身の、身長三十㎝くらいのチュン・リーが現れる。
 小さなチュン・リーはシナリオ通り、驚き、数語を文字だけでしゃべったあと、空き瓶を投げつけて彼女の父親を殺した人物、つまり私(太田)を捜し出す。
 私(太田)が一歩動くと、チュン・リーは二歩動く。
 ただし、チュン・リーと目を合わせなければ、こちらに迫ってくることはない。
 そういうことを、ゲームのプレイヤーである私(太田)は知っている。
 UFOキャッチャーの影からそろそろと動き、うまくゲームセンターを抜け出して通路に出る。
 壁を挟んで、『チュン・リーの冒険』を機動させているプレイステーションのある地点に着き、座りこむ。
 チュン・リーに私(太田)が捕まった場合、どういう現象が起こるのか、まったくわからない。ゲームを中断しようにも、ゲーム機はチュン・リーがうちの二倍速でうろついているゲームセンターのなかだ。
 (これからどうしよう…)と考えていると、
「あ、いたいた。」
 私(太田)に『チュン・リーの冒険』を売ってくれた青年が現れる。
「すいません、やっぱり未練があるので、あのゲームやっぱり返していただけますか? お金はお返ししますので」
 願ってもないことだ。永遠に続くかと思われたチュン・リーの復讐からこうも容易く逃れられるとは。
 青年に理由を話し、ゲームセンター内にあるプレイステーションを停止させ、マシンのなかからソフトを取り出してもらう。
 一息ついた私(太田)の伸ばした手の人指し指の第一関節には、しかし、なぜかもう一つの『チュン・リーの冒険』のソフトが、まるで不格好な指輪のようにはめられている。
 これもバグか? なぜ『チュン・リーの冒険』のソフトが二重化しているのだろうか?
 そう思ったら、私(太田)の持っているのはReview版で、プレイヤーの全員に渡される記念品のようなものだ。ただし、異様なほど本物とそっくりに造られている。
「ありがとうございました。ではこれで」
 帰ろうとする青年を引き留めて、彼の持っている『チュン・リーの冒険』のソフトと、偽造されたReview版を比較するふりをして、こっそりすり替える。
 青年は、青年が本物だと思い込んでいるReview版を持って帰ろうとする。しかし、二度と、『チュン・リーの冒険』を私(太田)はプレイすることがないであろことに気がつき、やはりすり替えてだまし取った本物も、青年に返す。
by warabannshi | 2009-03-24 05:31 | 夢日記 | Comments(0)
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