第239夜 「v.s. アンジェラ・アキ」
 江戸時代と思しき、武家造りの室内。広さは十八畳ほどで、畳みはふかふかした上等品。
 この田舎の藩の、老中や、それに準じた役職に就いている。
 棟続きの家屋にある居室の一つ、その真ん中で、略式の茶色い浴衣のようなものを着ていて、大の字に寝ころんでいる。
 閉まっている襖から、声。
「千手院さまの処置はいかがなさいましょうか?」
(もう歳も歳だし、毒殺がいいだろう……)
 大の字に寝ころんだまま、声に出さずにそう思う。
 それだけで、襖の向こうの声はこちらの意図を察したらしく、気配を消す。
 暗殺の指示を出して、こうやって政治は執り行われていくのだなあ、と天井を見上げながら、ふと視線を落とすと、襖の裏側に、さっきとは異なる気配。というより、殺気。黒い影が、見えていないのに、煙が立ちのぼるようにして発散されているのがわかる。
 衣擦れの音を立てないようにゆっくりと上半身を起こして、さらに片膝になって立ちあがる。
 帯刀しているべき刀は、五歩ほど後ろの床の間にある。十八畳ほどの部屋の真ん中で、浴衣のような略式の着物が、かなり動きを制約する。
 〈身をひるがえして床の間の刀をとり、次の呼吸で抜いて、襖の向こうにいる暗殺者と立ち会う〉という動きを頭のなかでやってみるが、何回やっても間に合わずに背中や脳天を斬られる。こちらはもう五十歳ほどで、俊敏な動きに自信があるほど若くはない。
 けれど、揉み合いになって加勢を呼べば、まだなんとかなる。
 なので、略式の浴衣の帯を締めなおす。
「あれ、刀をとらなくて良いの? 丸腰でしょ?」
 襖が音もなく薄く開いて、向こう側にいた人影が姿を現す。
 アンジェラ・アキだ。帯刀している。『キルビル』のザ・ブライドみたいだ。
「刀を使えるのはなにも私だけではない。一声あげれば、窮地に追い込まれるのはお前のほうだよ」
 ゆっくりと間合いを詰めてくるアンジェラ・アキに対して、刀の動きを壁で受けられるように、すり足で後ずさりしていく。
「じゃあ、一声、あげてみなよ」
 そうはいかない。いまの状況で加勢を呼んだとしても、この部屋に人が駆けつけてくる合間に、声をあげるために息を吐いてしまったこの体がアンジェラ・アキに致命傷を負わされているに違いない。
「それとも、いっそのこと、立ち合ってみるとか? それなりにあなたが強いのだとすれば」
 アンジェラ・アキは、まるでサイヤ人のような物の言い方をする。
「そうしよう」
 そう、勝機があるとすればそちらの方だ。
 アンジェラ・アキが持っていた刀を畳に突きさす。
「わくわくしているでしょう?」
 そう言って、アンジェラ・アキが踏み込み足で間合いを詰めて、重心移動も兼ねた右の正拳突き。突かれたのはただの一撃のはずなのに、三回の衝撃が鳩尾に入り、呼吸がとまる。
by warabannshi | 2009-03-29 03:36 | 夢日記 | Comments(0)
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