老衰した一等の狩猟者が、獲物の餌食になる場面で終わりを告げるように、もし転生ということがあるなら、彼ひとりの観察と記述の微細な経路を通ってこそ、私らは生まれ出ようと観念する。紙の高さのいきれに混じる、緑褐色の液、キチン質の残片。
九日の夜からしたたか雨が降った。二昼夜手記を駆けてきたペンが、採集してきた無傷の、干涸らびる気配すらない樹皮の上へと移っていった。私の名前はその周辺に次々と系統だって派生し、もはや手の施しようなく生い茂った明け方、長い記述の果て、娘を娶った。歌は雨音に紛れ、次の時代へ、なお幾週となく朗らかにつづいていった。
日が翳った。私は翅あるもののごとく振舞いながら、日の中では骨あるものの骨のごとくに透け、影の中では自身を、一帯を翳らす雲そのものと思うこともあった。すると、肩のあたりでくずれるものと胸のほとりに湧くものとが、きりのない古びた記憶の循環をはじめそうな気配さえする。
産毛にもみえ、もっと劣ったものにも見える波の毳立ちに、骨の船が白くひとつ掛かっていた。刳(えぐ)られて透き通る器は空虚をはこびながらそれ自身、別のなにかとの連繋部(れんけいぶ)でもあるようだった。だが手にとればぼろぼろと形を壊すのにちがいはなかった。
by warabannshi
| 2009-06-04 00:59
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夢日記、読書メモ、レジュメなどの保管場所。
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