福島聡のマンガみたいな画風の、五つの短編。
【1】
直径一〇〇メートルほどの巨大なマシュマロ状の白いものに、際限なく、追いかけられている二十代前半の男性。
高層ビルが立ちならぶオフィス街には、彼以外の人間はいない。
大通りには整備された並木道がずっと、ほとんど果てしなくつづいている。
ゲームの太陽に照らされて、ハレーションをおこしているアスファルト。まぶしいが、しかし暑くはない。これはゲーム、あるいは夢なのだから。そのことは、逃げている彼も知っている。
直径一〇〇メートルほどの巨大なマシュマロ状の白いものは、べつに高層ビルをなぎたおすわけでもなく、粛々と、その形を変形させて、彼を追ってくる。
いまマシュマロ状のものは、首の短いキリンのような四つ足の形になっている。
彼は大通りをまっすぐに走る。息はきれない。
直径一メートルほどのマシュマロ状の白いものが、いくつもいくつも彼と同じ方向に逃げていく。
それらの背中(?)にあたる部位には、「足」や「逃」と書いてある。
(こいつらが、あれ(巨大マシュマロ)に吸収されて、「足」になるのだとしたら、たまらないな)
けれど、「逃」はいったいどのパーツになるのだろうか?
【2】
(……忘却……)
【3】
警察が、いたずらの通報をふせぐために、通報者の腰をまず縄で縛る。
その屈辱に耐えきれず、着物姿の老婆は、二〇メートルほどの赤土の崖のはしに杖をつきながら歩み寄り、海へ飛び降りる。
死んだのか、と思って崖の上から見下ろす警察官たち。
透明な海に、仰向けになってぷかぷか浮いている老婆が、愉快そうに高笑いをする。
その一部始終を、眼球だけになって、海の上の宙空に浮かびながら眺めている。
【4】
(……忘却……)
【5】
一人で留守番している小学生の男の子のために、救急箱を売っている(救急箱の中身だけではなく、中身の詰まっている「救急箱」を売っている)ドラッグストアを探している。富山の薬売りがいなくなってしまったことを惜しむ。