夜、高度一万メートルくらいを飛行中の飛行船。
その甲板の縁、鉄柵につかまって、甲板の縁の“向こう側”に、五歳くらいの女の子と、十歳くらいの女の子が立っている。
二人は同時に、ぱっと鉄柵から手を放す。
足場は人間を支えられるほど広くないので、二人の身体はひとしく傾く。虚空のほうへ。
そして、二人は、手を、一度、たたいてからまた鉄柵につかまる。
そしてまた 二人は同時に、ぱっと鉄柵から手を放す。
こんどは、手を、二度、たたいてからまた鉄柵につかまる。
こうやって手をたたく数を増やしていく。
二人の女の子の蛮行は、【幸せなら手をたたこう】というゲームであることが了解される。
しかし、いったい何が「幸せ」だというのか?
手を四回ほど叩いたところで、十歳くらいの女の子のほうが鉄柵に掴まりきれずに、足を踏み外し、自由落下をはじめる。まったく悲鳴もあげずに。
そして、ある程度の宙空で、その女の子の背中あたりからものすごい勢いで、数百本の青白い腕が生える。それらの腕が、彼女の地上への激突をどう助けるかは不明。