【お知らせ】日本ラカン協会第7回ワークショップ 詳細
日本ラカン協会第7回ワークショップ
会場:専修大学神田校舎 7号館 3階の731教室
http://www.senshu-u.ac.jp/univguide/campus_info/kanda_campus/kanda_camap.html
日時:2009 年6 月28 日(日)
時間:14:00-18:00
※参加費:無料
※使用言語:日本語

問い合わせ先:日本ラカン協会事務局
〒101-8425 東京都千代田区神田神保町3-8
専修大学 神田校舎908 伊吹研究室
E- mail:sljsecretariat@netscape.net


●イベントとしての美術作品の関係におけるアート・キュレーティングと批評
 ジョルジュ・ディディ=ユベルマンとジャック・ラカンの幾つかの
 「キュレーティング上の注目」を基にして

発表者:ロディオン・トロフィムチェンコ
     (武蔵野美術大学博士課程美術理論領域/フリー・キュレータ)

 キュレータのこんな発想をよく耳にする。つまり、「作品を単に置くのではなく、イベントも企画する」という発言に要約されるような考えである。関連イベントによって観客の人数を増やすという意図と「『単なる作品』だけでは不十分だ」という不安を別にしても、上に示した表現は、このようなキュレータ上のディスクールにおいて作品自体がイベントとして受け取られていないということは明らかである。本発表はこのようなキュレータの考えに対するリアクションとして呈示されうる。
  症状、偶然性、イベントとの関係を失せずに、美術作品を「作品との出会い」として提示するジョルジュ・ディディ=ユベルマンのいくつかの概念から始めよう。作品とはハプニング/出来事/事故/トラウマに形を与えるという作家の意図の表示であるなら、キュレータの仕事は「保護」(物質的/実証的な意味ではなく、最終的に現象学的な意味で理解された「保護」)である。キュレータの任務とは、作品が影響の力強いパラドクスを出現できて、「展覧会」を「経験」にかえることができるように展示スペースを形成することである。この考え方を実現させる幾つかの試みを取り上げる。特に、「ヤング、アグレッシヴ」展の「喧騒」というホール(武蔵野美術大学、2008年)、「移植ベビー」の幾つかの展示空間と佐藤成高の作品(art project frantic/Spiral Hall、2009年)、「再生させる解消」展(art project frantic, 2009年)における唐津譲治の作品のシリーズに注目しよう。
 最後に、「イベント」の概念と作品を見せる方法論をもっと深く理解するために、ジャック・ラカンのテキストに参考する。第一に、「作品の位置」という問題を強調するため、ラカンのホルバインの「大使たち」を見る経験を取り上げ、この経験をまたラカンの「サーディン缶を見る経験」と重ねてみる。第二に、キュレーティングのテキストが「作品を見る立場」をどのように構成するのかを理解するために、ラカンの「Avis au Lecteur Japonais」というテキスト、つまりラカンの「Écrits」の読みに対するひとつの「立場」として日本に送られたものを参考にする。 
 これを基にし、「美術作品を展示する」というのは「美術作品に対する視点を展示する」ことだということ、すなわち「美術作品を経験すること」をイベントとして提供することだということを示したいと思う。
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“The Young, Aggressive” Exhibition, Brawl Hall, Musashino Art University Museum&Library, Tokyo, 2008
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唐津譲治: 再生させる解消


●宮澤賢治と精神分析 不道徳さと隣りあうために
 童話「銀河鉄道の夜」の原稿推移を題材に

発表者:太田和彦
     (東京農工大学大学院修士課程)

 今回の発表では日本の詩人・宮澤賢治(1896-1933)の童話「銀河鉄道の夜」の推敲推移をたどります。「銀河鉄道の夜」は九年間かけて推敲がなされており、物語そのものが変わるほどの大幅な手入れが三回なされています。そして、その推敲作業はきわめて精緻なものです。
 宮澤賢治の諸作品は、その内容を賢治の人生・思想と重ねて論じる、という主旨において、肯定的にも否定的にも批評・評価されることがおおいのですが、今回の発表では、作品にほどこされた推敲の推移に注目します。というのも、それらの推敲がどのような機能を期待されて行われたのか、という研究は、天沢退二郎の幾つかの論考を除くとほとんどないからです。(推敲の推移に関する文献学的な研究は、ある程度の数がありますが) 賢治が生前に刊行したのは『注文の多い料理店』と『春と修羅』の二冊のみなのですが、それを遥かに上回る数の童話・心象スケッチが、彼のトランクには保存されていました。そして未刊行のそれらの原稿には、厖大な量の書き直しがなされていたのです。「風の又三郎」、「ビジテリアン大祭」、「セロ弾きのゴーシュ」…、よく知られたこれらの作品は推敲途中のものなのです。
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 なぜ賢治は推敲を重ねたのでしょうか? それは彼が「まことのことば」、「ほんたうの幸い」という、真実性への強烈な志向のなかにあったからです。旧制盛岡中学校に在学していたときから彼が傾倒し、数千回となく読誦した『法華経』の、如来受領品第十六におけるゴータマの言葉。「私は真実の言葉を話す。私の言葉はいつでも偽ったものではありえない。方便でさえ、嘘ではない」。彼は“嘘と対置されない真実”に、体が震えるほどの感銘を受けます。
 しかし、賢治にとっての「まこと」は、決して平穏なものではありませんでした。彼の書簡を読むと、幻聴や譫妄、奇行、そしてよせてはかえす波のような昂奮と抑鬱状態に、彼の真実性がその根拠を持つことがわかります。そして彼はその真実について語ることを欲したのです。
 ところで、ジャック・ラカンは『精神分析の倫理』のなかでこう語っています。「とりとめのない行動、定型的とはいえないような行動の原理には、真なる欲望があったとしかいえないような、そういう真の欲望がそこにあるということだ」。そして、真の欲望とは構築物ではなく、真の欲望を語るときの語り口だけが構築物なのだ、と。その語り口は、普遍的なものではなく、このうえなく個別的なものである。ただし、その個々の語り口が、人間のおのおののうちで出会われるということは普遍的なのである、と。
 今回の発表は、賢治の「銀河鉄道の夜」における“真実”の語り口の推敲作業、果てしない試行錯誤について行われます。その作業の痕跡を追うことは、私たちが何をどのような語り方で語るべきではないか、を明らかにしてくれるでしょう。
by warabannshi | 2009-06-21 19:30
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