井の頭動物園のなかにある、ちょっとデカダンな植物園の二階。むし暑い。
私の後頭部には、皿、というか盤が、背骨に対して垂直方向に埋まっている。盤の直径は二十センチくらい、外延部分は、かなりの部分、後頭部からはみ出している。はみだしている部分の色は乳白色。素材はわからない。陶器? にしては軽い。あるいは骨かもしれない。
どういうわけか、この後頭部に埋まっている盤のせいで頭がぼんやりして、ラリっているか認知症のような状態。いや、盤のせいではなくて、植物園のコンクリートの臭いのする湿気によるものかもしれない。わからない。ただし、ぼんやりしているせいで、もう数日間を無為にすごしてきたのは間違いない。
「ちょっと電話してみようか?」
となりのベンチに座っていた谷川俊太郎が気をつかってくれる。
「いや、たぶん電磁波に(盤が)共鳴しちゃうとおもうので、平気です」
それに電話をかけたら、電磁波で、オオハシとかの熱帯鳥がさわぎたてると思う。井の頭動物園のなかにあるこの植物園にはたくさんの熱帯に棲息する鳥が飼われていて、彼ら/彼女らは携帯電話なんて知らないのだ。
ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」のキリエが遠くで流れている。もう夕方である。