プレミアものの靴下を何十足も冷蔵庫に入れて売っている店がある、と噂に聞く。店は表向き、競技用の自転車屋も経営していて、ロードレーサーたちはもちろん周囲の住民たちも、もっぱら後者の意味で“品揃えの良い店”としてしかこの店を認知していないらしい。
しかし私は、その店の、プレミアものの靴下を“品揃え良く”売るという点に興味がある。
国道沿いの雑木林に半ば埋もれるような感じで、その店は建っていて、白ペンキの剥げかかった壁には野球ボールを投げ付けた跡のような丸い斑点がところどころに付いている。駐車場も兼ねている砂利道を進んでいくと、店の玄関がある。なるほど。組上がったピストやロードレーサーなどが並べられていて、どう見ても競技用自転車屋である。
受付のお姉さんは右肩にタトゥーを入れている。この人に聞けば良いだろう。
「すいません。靴下を買いに来たのですが」
「シマノのやつなら980円からありますよ」
「いえ、真っ赤な、膝上まである厚手の靴下が欲しくて。……魔除けになりそうなのを」
しかし、ちんぷんかんぷんだ、という面持ちで、お姉さんはカウンターを挟んで私を凝視する。私は初めて、「靴下」が何かの符丁である可能性に思い至る。