役者に代々、一卵性双生児を起用する、古式歌舞伎のひとつ。完全な家族制をとる梨園では、生まれてくる子供をことごとく双子にするような秘術の開発が十数世紀前から進んでいる。
今日は私たち、四歳の兄弟による初舞台である。
双子は一度に舞台に上がることはなく、片方は必ず客席に控える。そして、片割れの演技を見ながら自らの“離見”の感覚を研ぐ。
しかし、弟はソロのパートで台詞を見失う。
客席で、祖母(彼女も役者であり、双子である)の隣りで、彼のパニック状態を見ていたが、祖母に促され、弟と交代することになる。
裏まで行くと、四人の御付きの者たちが、互いに目配せをしあい、舞台の上で意味不明なアドリブをしている弟を素早く回収する。
「つないでください。あなたなら出来る」
つまり、弟の意味不明なアドリブを、合理的な伏線として、すべて回収しろ、ということだ。無理に決まっている。
場面としては、包丁をもった三人のやくざ者を相手に啖呵を切らなくてはならない。だが、弟が床一面にまき散らした小道具の洗濯物を片付けなければ、啖呵を切ってもマヌケなだけだ。