ゴジラがあらわれ、都市部を荒らしているらしい。しかし私たちには関係ないだろうと、弟Y他、友人らと無人の防波堤でヴァカンスを楽しんでいる。日向ぼっこをしたり、釣りをしたり。私は塩谷さんの講義を録音したファイルを文章に起こしている。
すると、ゴジラがどうやらこちらに近付いていることがラジオでわかる。地響きが近付いてくる。
悲鳴をあげて海へ飛び込んでいく友人たち。私は講義を録音したボイス・レコーダーが故障すると嫌なので、ビニール袋に入れてから、口に含み、海に飛び込む。
たしかにゴジラはやって来て、私たちのいた堤防を粉々にしようという意図もなしに粉々に踏みつぶす。そのときに渦潮が巻きおこり、私と弟Yはその渦潮のなかに飲み込まれる。
海底は二重底になっており、私と弟Yは二つの“底”のあいだの空間に流し込まれる。
濁流に抵抗することもできず、流されていると、「満腹室」という部屋の前に漂着する。
「満腹室」の長テーブルには、八人分ほどのディナーが用意され、コーン・ポタージュは湯気をたてている。
しかしまったくの無人である。
「博士になった学生の成功を、教授は素直に喜べないものだからね」
弟Yはそう言って、「満腹室」のテーブルにつく。
「何の話?」
「******(忘却)」
パンを食べている弟Yは、いつの間にか化粧の濃い中年女性になっている。