市ヶ谷の祖母宅から自転車に乗って帰る途中、西新宿の路上で、うずくまってぜえぜえ喘いでいるシベリアン・ハスキーと会う。
「夏バテだね」彼女Fがハスキー犬のお腹を触診しながら言う。「私もこんなふうになったことがある」
「ポカリスエット、飲むかな?」
「私は飲むよ」
自販機でポカリを買って戻るとFはいず、ハスキー犬は布きれの敷かれた前カゴに乗せられている。連れて帰って世話をしろ、ということなのだろう、と思う。合点する。
前カゴから聞こえるハスキー犬の荒い息継ぎの音を心配しながら、しばらく走ると、友人UとHが路上で卓球をしている。
UとHに、拾ったハスキー犬のことを話していると、「説明が足りないな。まず、俺のTシャツが犬の下に敷かれて、びしょびしょになっていることからだ」とHが唸るように言う。
ギョッとして改めると、たしかに以前Hから借りたシャツがハスキー犬の下で濡れている。汗だよ、こいつ夏バテしてポカリ飲んだから、と言おうとしたが、白々しいのでやめる。これはまちがいなく犬の排尿の跡である。
シャツは洗濯して返すことになり、家に着く。
玄関をあけると、巨大なスコアボードにびっしりと数字が書かれていて、その上に、「朝までかかります」という伝言。