第362夜「例大祭」
 有楽町で、百年に一度の例大祭が行われるらしい。私は、弟Yと祖母Rと、例大祭がはじまるまでドトールで時間を潰している。
 茶飲み話も尽きたので、「無精双六」をやる。時計回りで自分の隣りの相手のふったサイコロの目のぶんだけ自分のコマを進める、という趣向の双六である。しかし、いつの間にか故人である祖父Tも参加しているため、彼にふってもらうはずの私のコマは、まったく進まない。事実上、無精双六は三人で行われている。私はスタート地点で搾取されているだけだ。あきらかに不公平であるが、それを指摘すると祖父が悲しむだろうと思い、私は黙って弟のぶんのサイコロをふりつづける。
 一局が終わり、勿論、私がビリなので、私を含めた四人分の飲み物をカウンターに注文しにいく。お腹もすいているので、ジャーマンドックでも食べようと思う。
 ドトールのなかは、例大祭を見物しようと集まった人たちでごった返している。喫煙エリアから溢れたタバコの煙がもわもわと、薄い霧のようにかかっている。何かの賭けが行われているらしく、オッズが映された液晶テレビでめまぐるしく数字が動いている。人ごみを掻き分けていくその途中、遠くで、大砲の鳴る音が聞こえる。
「何っ?」
 俄かにドトールのなかが色めき立つ。果たして、再び、空腹に堪える破裂音が響き渡る。
「そらっ!」
 ドトールは瞬く間に閉店準備を始め、お客は産卵でもしにいくかのように一斉に店を出る。
 例大祭が始まったのである。
 私も負けずに店を出て、人込みでごった返す国道一号線を歩く。例大祭に向かう観光バスの横腹に掴まって、さっきできなかった無精をする。
 やがて神輿の掛け声が聞こえてくる。せいや、せいや、せいや、せいや、と私も足踏みをしながら交差点で待っている。すると、ビルの隙間から、信じられないほど巨大な神輿が、揺れながら現れる。担ぎ手の数は、三百人を決して下らないだろう。金色に光る堂には、赤や黒や黄色や青や白やごたごたと布が巻きつけられていて、ものすごい気配を発している。おまけにそんな巨大神輿の数だって、十や二十どころではない。有楽町にはこんなに多くの鯔背な若者がいたのか、と私は驚く。この若者のなかには故人も混ざっているのではなかろうか。
「コミケ並みですよ、百年に一度とはいえ」
「本当にねえ」
「息が止まりそうですよ」
「本当にねえ」
 本当にそうだ。上下に揺れる神輿をよく見ると、竹造りである。金色の光を放つ堂は、一本の竹をそのまま活用しているのだが、その直径はじつに二十メートルにも達する。雑居ビルなど軽々と超えるそそり立ちは、まさにご神体と呼ぶにふさわしい威容である。私は嬉しくなる。この地上の何処かには、まだ神話のような竹林があるのだ。私は嬉しくて涙が止まらなくなる。
by warabannshi | 2010-05-08 20:56 | 夢日記 | Comments(0)
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