第401夜「踊り」
 照葉樹林帯の山の中の二車線の国道、そのとあるトンネルの片方の出入り口付近に乗り捨てられた廃車に住んでいる。
 日が高くのぼってから目を覚まし、とくにすることもないのでそれまでくるまっていたタオルケットと踊る。オペラ『こうもり』の序曲を歌いながらくるくると車道の真ん中で回っていると、「太田さん!」と呼ばれる。
 トンネルと反対方向に伸びた道の向こうから、二人の女の子がやってくる。二人の抱えている荷物は、黒電話、シルクハット、蝶ネクタイなどなど、ごちゃごちゃしていて他は判別がつかない。二人の女の子には、両方とも見覚えがあるが、名前がまったく思い出せない。大学の学部生だったような気もする。
「今日は体幹トレーニングをつけてもらいに来ました!」
 そうか! 私は不意に思い出す。彼女らのことはやはりどこの誰だかわからないが、私は彼女らの奇術・ジャグリングの出し物のコーチを引き受けたのだ。タオルケットと踊っている場合ではない。そそくさと廃車にもどり、一本歯の下駄を履こうとするが、どうしても見当たらない。
 ふと振り向くと、いつの間にか廃車の周りには十五人の男子・女子が集まっていて、それぞれ、自身のメイクやら道具を身につけはじめている。
 火の玉を中空に浮かせている者あり、三本の刃物をジャグリングしている者あり。先ほどの女の子の一人は、黒電話を手に持ってなにかを話しながら、シルクハットをかぶったマネキンを優雅に踊らせている。私のタオルケットとの踊りとは似ても似つかない優雅さである。
「すごいね、どうやっているの?」
「これですか? カンタンですよ。黒電話の受話器と、このダイアルのついている部分に数本ずつ透明な釣り糸がついていて、それがマネキンの上半身と下半身のいくつかのポイントにつながっているんです。だから、受話器をかたむけたりすると、こうやって――マネキンも腰をひねるわけです」
 ちっともカンタンそうには見えない。だからこそすごい。
 私ができるのは、彼ら・彼女らに「体幹トレーニングをつける」ために、この国道のトンネルを、奇術・ジャグリングをしながら歩かせることくらいだ。(これは非合理的なトレーニングではない)
 私も一本歯の下駄を履いて伴走しようと思ったが、それがいくら探しても見当たらない。
 不意に、ぞわっと思い出す。そう、一本歯の下駄は、トンネルの壁面かに天井までみっしりと絡みついたツタにつぶされてしまったのだ。ツタどもが量子力学をまったく嫌うせいで、あのトンネルのなかではときおり、物が物自身の重みでつぶれてしまうことがある。そのことをすっかり忘れていた。
 私は集まった男子・女子にそれを知らせようと廃車につっこんでいた体を抜く。
by warabannshi | 2010-08-28 09:08 | 夢日記 | Comments(0)
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