第406夜「後片付け」
 「百物語」などをしたことのある高校にいる。校舎が一部、万年凍土の、コケしか生えないきりたった崖と融合していて、私はその校舎の最上階階部分で安穏と夏休みの最後を楽しんでいる。(「30℃をこえたら夏休み続行」)
 崖は永久凍土であるから、夏でもとても涼しいのだ。しかも標高が高いため、こんな辺鄙なところまでほとんど生徒たちは来ない。
 私はそこで、校舎と崖の境目あたりに自分の部屋をつくり、よく知らない祖母と、草花の種などを吟味しながら、過ごしていた。
 しかし、まったくもって不意に、校舎の奥の暗いスロープ付階段から、とどろくエンジン音が近づいてきたのである。こんなことは初めてなので、まごまごしていると、二人乗りのハーレーが真っ暗闇の廊下から姿を現した。そして、校舎と崖の境目あたりでまごまごしている私を素通りし、崖の壁に通知プリントを張り付け、またあっという間に、エンジンの爆音とともに、ハーレーはスロープ付階段の下の闇に消えた。
「あの人たちは全共闘世代なんだよ。山岳キャンプとかで活動していたこともあってね。二人は道に迷ったすえに嵐に見舞われ、洞窟に逃げ込んだんだが、そこで有毒のコケをひとかけら食べてしまってね。亡くなったんだよ」
 よく知らない祖母が二人のイージー・ゴースト・ライダーの由縁を話してくれる。
「その山岳、って、もしかして、ここ?」
「だから彼らは配達人をしているんじゃないか」
 祖母はそういって笑った。
 私は彼らの届けてくれた通知書を読む。
 夏休みの後片付けをしろ、とのことである。
 そうだ。私たちは校舎の一階部分で合宿をしたきり、寝具や鍋やその他諸々を、すべて昇降口に放置してきてしまったのである。これでは怒られるはずである。
 私が最上階から、長い長い真っ暗闇の廊下をたどって、一階まで降りていくと、もうすでに仲間たちが揃って後片付けをしていた。
「太田君が最後だから、布団をお願いに」
 友人Hが言う。文句は言えない。私は湿気を吸って固まり、岩塩のように重くなった綿布団を三つ折にして肩に背負う。
「こりゃ、干したほうがいいな」
「もちろん。二階までお願いね」
 私は階段を、エジプトの奴隷になった気分でのぼる。気分がどんどん落ち込んできたので、思わず「ウェザナーイ! ハズカム。デュルレッティノーオ。ララユー、フェッティンオー。スタンド・バイ・ミー」と適当な「スタンド・バイ・ミー」を叫ぶように歌う。
 すかさず、ボディーブローが入る。
「恥ずかしいからやめてください!」
 彼女Fである。
 友人込みの共同生活では、このようにFに恥をかかされるため、何事かあるたびに私の威信なりが落ちていやしまいかと心配になる。
 なんとか二階につき、教室のベランダに布団を投げ出すようにして干した。すでに夜であり、金星がちりちりと光ってる。
 向かいの校舎では、すべて毛糸の編み物によって作られた、幅一〇メートル以上、長さは、ちょっとわからないくらいの巨大な錦絵が垂れ下げられている。そういえば、もう文化祭である。
「いやー、私、編み物しますけれど、あんなすごいのは作ったことないですよ」
 彼女Fが隣に並んで言う。
「あ、あれ作ったの、うちだけど」私は言う。
「本当ですか?!」
「夏休みはずっと篭もって編み物をしていた」もちろん嘘である。
「じゃあこんど、キャプテン翼の絵柄が入ったバスタオルを編んでください!」
 私のことばを露ほども疑っていない感じで、彼女Fはそう言う。私は嘘だと言うことができず(たぶんまたボディブローだ)、頭のなかでバスタオルの断面構造を必死に思い出そうとする。
by warabannshi | 2010-09-11 22:16 | 夢日記 | Comments(0)
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