第415夜「剃刀」
 ゲーム「ウィザードリィ」の迷宮を切り取ったような、ひどく薄暗い空気の痩せたL字型の部屋に棲んでいる。彼女Fが、私の背中の毛を剃ると言う。私はL字の、ちょっと曲がった部分に設えたデスクトップのコンピュータに向かっている。誰が作ったかよくわからない複雑な楽曲を楽譜にして、明朝までに支配人に渡さなければならない。私は吐き気がするほど忙しく、Fは暇そうにしている。そのため、私はなんとなく、腹が立っている。
「馬か狸じゃあるまいし、背中に毛なんて生えていないよ」
 画面から目を離さずに言う。
「太田さんは自分で気がついていないだけですよ。すごいことになっている」
 Fは、私が向けている背中に手を剃刀を持った右手を突っ込む。そして有無を言わさず、横に掻っ切る。
 なるほど。柔らかな濡れた毛が束となってぼとぼとと暗い床に落ちる。筆が作れそうである。
「こんなに?」
「鬣ですよ」
「じゃあ、お願いしても良い?」
「ええ」
「うちは楽譜を書いててもいいかな」
 Fは答えず、ぞりぞりと剃りはじめた。大して気に止めている風でもなかったので、私は安心して作業にもどる。
 しかし、落ちた毛を掃除しやすくするために新聞紙を敷いたほうがいいのではないか、石鹸で毛を泡立てないといまに怪我をするのではないか、など、ちらちらと気になって作業に満身で集中することができない。おまけに一処だけを剃っているようで、そこだけがやけに涼しい。どれくらい経ったか知らないが、それでも良い具合に五線譜におたまじゃくしを並べているていると、不意に部屋の自動ドアが開く。
「やあやあ、結構なご住まいですな」
 無遠慮な声がする。振り返りたいが、Fが鋭利な刃物を背中にあてているせいで動けない。カーブミラーで、やっと入ってきたのがイルカの顔をした中年男性であることがわかる。両目の間が異様にひらいている。一人ではない。精神遅滞とおぼしき挙動の男子を伴っている。
「どうも暑くてかないません」
 勝手なことを言って、ちゃぶ台の上の林檎を齧る。この林檎はどうせ私はアレルギーで食べられないからいいのだが、そういうことをする輩を許すことはできない。
「何ですか、あなた方は」と私が怒鳴った。
 イルカの伴っていた精神遅滞の男子が「いやえーん」と解らないことを言って、床にひっくり返る。イルカは、ようしよしよしと男子のわき腹をくすぐり、あやしはじめる。そのすべてを私はカーブミラーで見ていて、いよいよ怒りをつのらせる。
by warabannshi | 2010-10-11 07:16 | 夢日記 | Comments(0)
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