交通規制のかけられた四車線の車道を、爪先から全身を炎に包まれた男が一人、ふらふらと歩いているのを鳥瞰している。
火達磨の彼はあわてふためく素振りも見せず、窒息するでもない。まるで蝋燭の灯心だけがそのまま彷徨っているかのようである。悠然と歩いている。彼から五メートルくらい離れたところで、野次馬やマスコミが円を作って、息を呑んでいる。
やおら、男が走り出し、誰彼構わず抱き付こうとする。左腕が燃えだすサラリーマンの絶叫や、恐慌状態になって拳銃を乱射する若い警察官が騒ぎを広げる。
「麻薬取締捜査官として、同僚に殺されたいんだ」
炎のなかの彼の顔はちっとも焼けただれてはいず、まるで空也上人像のようである。