秋葉原・電気街のはずなのだが、街路はひどく荒廃している。軒を連ねる店舗はことごとくシャッターを下ろし、コンクリートは腐食したように白くなっている。白人男性のコスプレイヤーが目に付く。彼らはこの呪われた空間でも、陽気である。熊のような体躯のおっさんが、包装してあったビニール袋をつけたままで、第3新東京市立第壱中学校の制服を着ている。目に余る。
「Do you eat a cat?」
顔面が吹き出物だらけの、人種がよくわからないおばさんが話しかけてくる。
私を愚弄しているわけではなく、単に世話好きなのだろうと思う。彼女の髪の毛は、洗っていないせいで天然のドレッド・ヘアーになっている。
「猫は好きだけど、本物とロボットの区別がつくほどではないかな」
どうせ通じないと思い、日本語で答える。
しかしおばさんは理解したようで、奇跡的に店をあけている玩具屋の店頭でボールをくるくると追尾しつづけているネコ型のおもちゃから毛を1本抜いて、私の目の前につきだす。
「毛をしゃぶってみればわかるよ」
日本語がしゃべれるなら、最初からしゃべればいいと思う。
下手な対応をして怒らせても仕方ないので、木枯らし紋次郎が楊枝をくわえるように、長いナイロン製の猫の毛をくわえる。
「あとカエルかな」
見知らぬ青年が、そう言って通りがかりに私の唇に干からびた青ガエルをねじ込む。
【いつか墓穴となる日まで】というクレジット。