第428夜「複葉機」
 赤レンガの倉庫の立ち並ぶ入り江の迷路のように折れたり突き当たったりする散歩道を友人らとそぞろ歩いている。私はつい二、三日前にこの町に着いたので、散歩しながら友人らからこの町の様子を聞いているのだ。チューリップの球根のバブルがおこったために、一攫千金をねらう先物買いの投資家たちがこの町に集まっており、そのため中華料理屋と物まね芸人が引く手あまたである、と名前の知らない四〇歳ほどの友人が私に教える。
「道理で、さっきからチャーハンの匂いがあっちこっちからすると思いましたよ」
「みんなが、つまり素人連中まで物まね動画を投稿するものだからうるさくてうるさくて。この町ではミクシィはやらないほうがいい」
 友人Wも嘆息する。
 どこからか盛大なエンジン音が冷えた大気に響きはじめる。
 私たちが湾を一望できるところにつくと、ちょうど水陸両用の巨大な複葉機が水面を離れて飛び立つところだった。驚くことに、羽が縦に十枚もある。それぞれの羽のあいだは2メートルほど離れており、その支柱に何かの箱を大事そうに胸元にささげ持った男が一つの羽の左右に3人ずつ、総計、3×2×10=60人、直立している。
「あれはティッシュですよ。儲けた金でティッシュを買占め、本国にもどって売るのでしょうな」
 四〇歳ほどの男が知ったかぶってそう言う。馬鹿な。複葉機の羽の支柱に立った男たちが持っているもの、あれは遺骨だ。遺骨とティッシュを間違えるようなやつは、友人でもなんでもない。
 絶妙なバランスで、男たちと遺骨たちを乗せた複葉機は入り江のなかを旋廻する。
 木造の複葉をつなぎとめる諸部品が大気圧で軋む音、まっすぐ前方を見つめたままの男たちの呼吸音、唾を飲む音までが、私の冷え切った耳に聞こえてきそうである。ぐんぐんと集中していくと、直立している男たちが全員はだしであることまでわかる。
 複葉機の胴体から、いつの間にか、さらに片翼に3人ずつ、計6人の美少年がそろそろと最下段の翼に歩み出る。この寒空なのに、皆、半ズボンである。そして、等間隔でならぶ男たちのその間に立つ。
 はっと思ったときには、彼らは一斉に下から二番目のポールに飛びつき、懸垂の要領で、よじ登った。そして、ふらふらしながら二番目の翼の支柱に立ち、三番目の翼の支柱を見上げる。
 この曲芸が、彼らの葬送のやり方なのだろうか? 私はもう複葉機から目が離せない。華奢な少年たちは、どれほど練習を重ねたのだろうか。掌はおそらく不似合いに硬く、指はつき指でごつごつしているだろう。そして、彼らの命を左右する操縦桿を握っている操縦士と、どれほどの信頼関係をどのように築いてこの飛行に臨んだのだろうか。
 下から三番目の支柱に、6人の少年らがまた跳躍する。
by warabannshi | 2010-11-15 09:05 | 夢日記 | Comments(0)
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