第439夜「下校」
 朝方か夕暮れかわからない薄ぼんやりした空気を吸って、目を覚ます。職員室の机で突っ伏して眠ってしまっていたのである。職員室には私のほかには誰も残っていず、部屋の隅で小さなつむじ風が一つできていて、埃を巻き上げさせている。一面の窓からは、せまくるしい校庭をすっかり見渡すことができるが、やはり生徒のいる気配はなく、安穏とした空気が降りているだけで、とても寂しい気持ちになる。
 靴の表面が乾いてぼろぼろになっていたので、校舎の裏手にあるよろずやで靴墨を買ってこようと財布をもって出かける。
 しかし、よろづやにも人はいない。蛍光灯は切れてはいず、プラスチックのほうきや上履きなどが処狭しと積んであるのにもかかわらず、しかも私はこのよろづやにいまだかつて店員がいたことを見たことがないことに気づく。
(なんという無用心。)
 祭りの日の境内の屋台のように定食屋がずらりと並んでいる。それらの店先には、旧式のブラウン管テレビが、街頭に向けて音のない光を放っている。
 学校に戻ると、いつの間にか生徒たちがぞろぞろと下校していて、校門では巨きな山桜が満開である。
「ああ、太田さんが戻ってきたよ」
 桜の木の根元で談笑していた学生服を着た七、八人ほどの友人らが振り向く。あまりにいっせいだったので、大正時代に撮られた映画のワンシーンのようだと思う。
「じゃあ帰ろう」
 よくよく見ると、高校のときの友人K、友人Iや、大学のときの友人Nらがごくふつうに話して笑っている。
「太田、ちょっと話したいことがあるんだけど……」
 七、八人ほどのその集団でだんごになりながら上板橋駅に向かって歩いていると、いつもちゃっかりしている友人Sがいつになく真面目な顔つきで私に話しかけてくる。
「なに?」
 私は真面目そうにしている友人Sのわき腹をつついてからかう。Sはちっとも笑わずに、
「彼らに聞かれたくないんだ」
 そう言って足早に歩き出す。
 私は彼についていこうと歩調を合わせるが、ほとんど走るようになっても、Sの隣に並ぶことができない。「ちょっと待ってよ」と言おうとしても、息が切れて遠くを歩くSの背中にちっとも届かない。もう友人らは遠く後ろのほうにおり、私は曖昧な光のなかで「待って、待って」を繰り返す。
by warabannshi | 2010-12-19 05:13 | 夢日記 | Comments(0)
<< 第440夜「臨終式」 第438夜「落語」 >>



夢日記、読書メモ、レジュメなどの保管場所。
by warabannshi
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
twitter
カテゴリ
全体
翻訳(英→日)
論文・レジュメ
塩谷賢発言集
夢日記
メモ
その他
検索
以前の記事
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 11月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 03月
2007年 01月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2004年 11月
2004年 08月
2001年 12月
記事ランキング