第446夜「国立駅」
 国立駅の高架の傍の土手で、一度も通ったことのない高校の制服を着て、一度もつるんだことのない悪友たちと酒を飲んでいる。なぜか四人の教員もその酒盛りに参加していて、騒々しく巫戯けている私たちを涼やかな顔で見やっている。教員の一人はほかの高校から派遣されてきた「人文社会」の担当で、いつも萩原朔太郎の話ばかりするので「朔太郎はそんなこと言いましたか?」と生徒からよくからかわれている。
「太田君はWikipediaつかったことある?」
 その朔太郎が餃子を食べている私に言う。朔太郎がかけている黒縁フレームの眼鏡をひょいと外して私の眼鏡と取り替えてみたい衝動にかられるが、たとえ酔っていたとしてもそこまで馴れ馴れしくはできない。ふつうに答える。
「使う、っていうのは、記事を造ったり、更新したりすることですよね。閲覧するんじゃなくて」
「そう。俺、Wikipedia、授業で使おうと思うんだよね。Wikiのページとして、授業のコーナーを造っちゃうの。荒らしに来たやつは履歴を見れば一発でわかるし」
「いいんじゃないですか」
「よし、じゃあ、早速本屋に行ってくるよ。どこにある?」
 私は酔った頭で必死に最寄の本屋を思い浮かべようとする。国立駅の高架下に、たしかいまにも朽ち果てそうな本屋があったはずである。ただ、その高架下までどうやればたどり着けるのか思い出せない。
「あとで連れて行ってあげますよ」
 そう言おうとすると、いつのまにか酒宴は終わっていて、総武線の黄色い車体に満艦飾となって悪友たちが手を振っている。教員の三人は、土手で体育座りをして微笑を浮かべてその生徒らを眺めている。そこに耐え難い怠惰さを見出し、ぞっとする。
 その教員らのなかに朔太郎がいない。
「すみません、××先生(=朔太郎)はどこにいますか?」
 反感を抑えて訊くと、彼らは朔太郎はもう帰ったという。
 その瞬間、濁り、汚い、的屋や一膳飯屋の小屋の立ち並ぶ国立駅構内の本屋で立ち読みをしている朔太郎の姿が目に浮かぶ。
 そうか、駅構内にも本屋はあったじゃないか、と思い、私は彼に謝りに駅構内に急ぐ。傷痍軍人が慈善鍋をやっている。駅前では迷惑も顧みずにボブ・マーレィの曲を大音量で鳴らして踊っている若者たちがいる。『ブレードランナー』を思い出す。
by warabannshi | 2011-01-08 17:05 | 夢日記 | Comments(2)
Commented by 小倉 at 2011-01-11 00:14 x
初めてブログを見ました。質問なのですが、塩谷さんの講義の10
年度の音声はアップして頂けませんか。是非聞きたいと思っております。
Commented by warabannshi at 2011-01-11 17:11
お返事が遅れてすみません。はい、しばらくお待ちください。
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