農工大の友人らと、噂のメイド喫茶「ヤマザキ」でお茶をしようということになる。メイドに特別な関心はないけれど、店内を調度するアンティーク家具が異常なハイレベル、ということをUかSから聞きおよび、よくわからない田舎の駅まで出掛ける。
「アキバかと思っていたよ。もしくは中野かと思っていたよ」とN。彼はコーデュロイのジャケットを着ている。私も似たようなものだ。その一方で、向こうで太平洋戦争の戦艦の主砲について談笑しているUとSは、明らかに山登りをする装備である。まだYとHが揃っていないので、この田舎の駅の待合室で待っているのである。外は冷たい霧雨が降っている。
「メイド喫茶じゃなくて、冥途喫茶だったりして」と私。
「いや実際」
Nが携帯の地図アプリを広げる。どうやらこのあたりは古墳らしく、駅前の川だと思ったのは陵墓を守るお堀である。そしてこの陵墓と、土産物を売る売店のほかに、店のようなものはない。
「駅から歩くのかな?」
「彼らの格好からすると、山に登るってことだよね」
結局、Hはあとで自転車でやってくるということが決まったので、四人で歩き始める。売店はシャッターを閉めており、玉砂利を敷いた参道には誰もいない。陰気に黒々と存在している陵墓を右手にぐるりと回り込み、アスファルトの登山道に出る。
「「ヤマザキ」の住所って、わかる?」
「ホームページに載っているんじゃない?」
「あとどれくらい歩かなくちゃいけないのか、地図アプリで検索しようよ。Uはヤマザキのホームページを出して。私は地図アプリで調べる」
そう提案するが、Uはいつになく愚図愚図している。
知らないうちにNとSは先程の二又の道を右に行ってしまったようで、私たちは二人で誰もいない薄暗い山道を歩いている。周りは、林業の衰退によって打ち棄てられた針葉樹が、露に濡れている。その状況のしょぼくれ方に我慢ができない。これは間違ってもメイド喫茶に行く雰囲気ではないではないか。だいたいこんな山奥にまともな喫茶店があるということが信じられない。
「もう私、山頂まで行くわ」
「ちょっと太田君」
「駆け上ってくる! そして駆けおりてくる!」
私は短距離走者のように走り出す。