第456夜「ロッカールーム」
 空港のある駅に向かって、夜行列車でまっしぐらに向かっている。四人がけのコンパートメントには、私と、二人のスーツ姿の男が座っていて、一人は眠っており、もう一人は海老のしんじょの煮物を駅弁の箱から食べている。
 私は空港のある駅に着くのが、待ち遠しくて待ち遠しくて、堪らない。理由はわからない。ただ、数分でも予定時刻から遅れたら承知しない、と決めて、雨が降りしきる真っ暗な造成地を睨みつけている自分の顔が、ぼんやりと車窓のガラスに映っている。
 あみだくじのように、転轍点を何回も越えて、空港のある駅に着く。
 停車時刻は十二分余りしかない。
 しかしその間に何をすればいいのかわからない。
 何をそんなに焦っていたのかわからなくなり、血が上った頭が痛みだす。ひとまず車外に出る。冷気が深い。改札口の向こう側で、祖母Rと母Nが手招きしているのを見つける。
「どうしたの?」
「集合写真を撮ろうと思って」と祖母。
「そんな時間ないって言ってるのに」と母。
「いや、大丈夫だよ」
「集合写真を撮るのなら、ロッカールームにいる故祖父Tを呼んでこないと」
 いつのまにか、従弟Kがスーツケースを持って隣にいる。この場合、故祖父を呼んでくるのは私の役目だろう。腕時計のアラームを発車の五分前にセットして、このアラームが鳴ったら、呆けかけている祖父を担ぎあげてでもこの改札口に連れてくることにする。
 駅地下の、冷え冷えとしただだっ広いロッカールームでは、シュールレアリスムの展示が行われている。ビビッドな色合いの絵画や立像が曲がり角や突き当りに、無闇に並べられている。そのせいで視界が塞がれて、なかなか故祖父を見つけられない。
 フィンランド人が私に絵画『ビニール袋を被った異性愛者の図』を売りつけようとする。
 何本目からの直線の真ん中でようやく、全身を赤く塗り、両腕の肘から先を義手のようなものに換装して「小さく前へならえ」の姿勢をとっている故祖父を見つける。自らを、作品として、展示しているらしい。
「集合写真を撮ろうと思うんだけど、ちょっと来てくれる?」
「タイトルを当てられたら」
「『気狂いビエロ』? ゴダールの」
「はずれ。『小さくされた犬猫のための芝刈り機』だよ」
 意味がわからないし、そろそろアラームも鳴る頃だと思ったので、故祖父の腰あたりを抱えて、一目散にロッカールームを後にする。長い長い階段を息を切らせてのぼりながら、しかし祖父の体は異様に軽く、まるで発泡スチロールで出来ているかのようで、死ぬとやはりこれくらい軽くなるのかと感心する。
by warabannshi | 2011-02-08 08:56 | 夢日記 | Comments(0)
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