第473夜「青物芝居」
 八百屋に林檎を含む何種類かの野菜を注文しようとする。母Nに電話番号を聞くが、十桁のうちの下一桁がまちがった番号ばかり教える。かろうじて、正しい番号を引き当てて、向こう側で受話器がとられるが、なんとも素っ気ない対応をされて、注文も聞かれないうちに通話を切られる。
 なんて対応だ、と腹を立てていると、目の前の倉庫に白い軽トラックが乗り付けられ、ぞくぞくと大道具が運び込まれていく。舟越桂の彫刻作品のような、奇妙な木製の立像が八体ほど。そして座席代わりのりんご箱が四十個ほど。私は思い出す。これから青物商たちの組合が芝居をやるのだ。開演時刻に準備が間に合わなそうだったから、あんなに電話を早く切りたがっていたのだ。
 倉庫のなかはエチレンの芳気でむせ返らんばかりである。青物商たちはもちろん平気な顔をしているが、気分が悪くなりそうなので、倉庫のなかからは退散する。とはいえ、芝居が見られなくなるわけではない。倉庫の三方の壁は吹き抜けなのだ。にもかかわらず、林檎の匂いが客席にこもるのは不思議なことである。
 軽トラックの荷台に腰をかけて待っていると、舞台の前口上がはじまる。
 マゼラン海峡で数年間、潮風に吹かれてきたようなぼさぼさ髪の巨漢が、黒板に絵を描きながら、この土地に鮫や亀に飲まれた人間が、その体内から脱出する話が多い、という話をする。巨漢の描いた色とりどりのチョークの線は、コマ撮り映画のようにふるふると動き出し、鮫などを演じだす。
「この鮫や亀は、じつは一人の検校を表わしていたのです」
 その検校は多くの門人たちを使役していたが、人使いが荒く、またそれで倒れる者を顧みない性質だった。
「だから逃げ出す者が多かったのです。とはいえ、盲は盲。そんなに遠くへは行けず、あっと言うまに検校のところに連れ戻されてしまいます。それでも逃げおおせた者は、検校に見つからないように、坊主頭の検校を鮫や亀に見立てて、その横暴を歌ったのでした」
 怪我が化膿して、左太腿から膿が流れ出しても海水で洗えば治ると放っておかれる、という意味の歌をマゼランの巨漢が朗々と歌う。
by warabannshi | 2011-04-07 06:33 | 夢日記 | Comments(0)
<< 第474夜「ゴーストバスターズ」 第472夜「問答屋」 >>



夢日記、読書メモ、レジュメなどの保管場所。
by warabannshi
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
twitter
カテゴリ
全体
翻訳(英→日)
論文・レジュメ
塩谷賢発言集
夢日記
メモ
その他
検索
以前の記事
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 11月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 03月
2007年 01月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2004年 11月
2004年 08月
2001年 12月
記事ランキング