布屋敷のある部屋の窓枠には、クロオオアリほどの大きさの見張りが14人ならんで、窓ガラスの隙間から吹き込んでくる風の量を一定に調節している。その窓から外に出ようとした私は、見張りの一人に厳しく誰何された。新鮮な空気を吸い、クリーム色に変化しつつある朝焼けの空を見ようとしただけで、他意はないことを、このささやかな見張り手にわかってもらおうとする。しかし、いつのまにか、彼らは吹き消されたようにいなくなっている。
(私を金持ちのぼんぼんか何かと誤解して、気を利かせてくれたのだろうか?)
14人の見張りが守ってきた隙間を、ちょっとだけ広げてみる。
とくに何も起こらないことを確かめて、窓枠の左下に設えられていた寝台に、窓枠のほうを頭にして寝転がる。
すると、400が沸騰したように因数分解され、私を急に不安にさせる。起き上がろうとするも、金縛りにあったようで、肩から先の左腕しか動かない。
(水泥棒だ!)
私の直観は当たる。私の腹の上、30センチあたりに、ひじきのような黒いノイズを含んだ水球がぽつんと生まれ、じわじわと膨らんでいく。それは見まごう事なきこの体の水分である。ひじきのような黒い線が福笑いのように寄り集まって中途半端な面を形成し、私の顔を眺める。私は水泥棒に復讐を誓う。
(木の葉のなかにある水分を奪うように、水底の木の葉をすべてひきあげてやろう)