第498夜「発掘調査」
 ある砂の楼閣の発掘調査に来ている。くすんだオレンジ色の砂と、それを生み出す同色の岩しかないので、精神が暑さよりも先に色で参ってしまいそうである。外資系ガソリンスタンドの、ちょっとした標識くらいあってもいいと思う。なのに、ここでは戦車(2人用の、チョロQみたいな形の)も、保護色を採用して、くすんだオレンジ色なのである。
 早く帰りたいけれど、発掘調査が一段落つくまでは、帰れない。なにを発掘しているのかは知らない。たださまざまな利権がからまりあっているらしく、この野営地となっているピラミッド状の建物には、スーツを着込み、褐色肌で髭を生やしたビジネスマンたちがやってくる。入れ替わり立ち代り。
 主な任務は、だから、彼らに冷たいミント・ティーを振舞うことである。お茶係は、私と、あと現地の名前を知らない女の子の2人が務めている。この女の子が現地語を含めてしゃべっているのを、聞いたことがない。ちゃんと動く冷蔵庫や、滴るような青のペパーミントを育てるだけの土、そして砂糖と真水がある、ということが、私の発狂を思いとどまらせている。

 私たちは、このように、発掘調査そのものには関わっていないが、地下155階まで降ろしてもらうことになる。消防署のように前面がシャッターの建物のなかの、エレベーターで、ずいずいと降りていく。
「もう2分ほどで着くよ」
 同乗している調査官が言う。
「早いんですね」
「下りはね。上りは70分近くかかるんだよ。任務を終えて、あー、暑い、眠い、とか思っていると、もう箱のなかでうずくまっちゃうよね」
 そんなこんなを話しているうちに、地下155階に着く。
 炭鉱のなかのようなむき出しの岩盤のなかで作業がされているのかと思いきや、サンダーバードの秘密基地のように整えられている。
「ああ、どうもどうも」
 人を信頼させるためにキャリアを積み上げてきたけれど、何より自身がそのキャリアに不信を抱いているので、風采も上がらず、おどおどしているような、スーツの60代ほどの男性がいる。彼は視察に来たのだろうか。エレベーターで一緒だった調査官が何か説明してくれているけれど、この初老の男性のほうに目がいってしまう。
 彼はまるで人目をはばかるように、銀色の魔法瓶をビジネスバッグから取り出し、その中身を手近にあったコーヒーポットに入れた。紅茶そっくりの色合いだが、注ぎいれる瞬間に、ほっ、と白い煙があがるのを私は見た。湯気? しかし、白い煙はあがりつづけているわけではない。ロングアイランド・アイスティ? まさか。スピリタスだって、あんなに煙はあがらない。
 私は意を決する。
「あー、お茶汲みなら、私が専門なんで。すみませんね、お手を煩わせてしまって」
 そんなことを言いながら、おどおどが極まって仰天したような顔になっている初老の男性から、コーヒーポットをひったくる。
 そして、わざとらしく、中身の1/3ほどを机にこぼす。
 すると雑巾にかかったその液体は邪悪なほどの臭気を発しながら、それを溶かし始める。強酸性の、紅茶によく似た液体が机をえぐりながら大きな染みを残す様子が、予想以上に楽しくて眺めていたので、その男がどのように捕縛されたかは知らない。

 ろくろく発掘現場を見ないまま私と女の子はまたピラミッドのお茶汲みにもどる。
 暇なときは、ビジネスマンたちがプレゼンテーションをする部屋の掃除もする。「3Aにおける3W」というビジネスモデルがホワイトボードに大書されている。つまり、「Android, ***, Arabにおけるwin,women, ***」の意である。
 部屋の隅で、大きなヘビが2匹、威嚇しあい、噛み付きあっている。
「あれ、毒、もってないよね?」
 そう話題をもちかけてみても、彼女は首をすくめてみせるだけで答えない。
 あのごたごたのあと、私は、強酸性の液体が入っている銀色の魔法瓶を持ってきてしまっている。それを誰かに飲ませようという気はない。が、なにかに使えるだろう、と思っていたのだが、溶かして面白そうなものもない。
 なので、投げ捨てることにする。魔法瓶は、砂の楼閣の張り出した部分にぽとりと落ちて、半分ほど埋まった。数年後、もしくは、数十年後、この魔法瓶を見つけた誰かが手ひどい火傷を負うかもしれない。そうならないことを祈りつつ、でも、本当にそう願っているなら、中身を詰めたまま投げ捨てはしないはずだろう。
by warabannshi | 2011-07-22 10:23 | 夢日記 | Comments(0)
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