第499夜「木賃宿」
 方南通り沿いと木賃宿に泊まることになる。自宅が歩いて帰れるほど近所にあるはずなのだが、どうしてもそこまでたどり着けそうにない。それに、近所だからこそ、木賃宿に入る機会を逸しているという面も、ある。何事もものは試しだ。カウンターで手続きを済ませると、しかしすぐには泊まれないという。ちょっと外をぶらぶらしてきてくれ、と言うので、やはり近所なのに立ち入ったことのない、カラス天狗を祀っている神社に行くことにする。
 神社の境内を、アスファルトのところと玉砂利とを交互に踏みながら歩き回る。神社の敷地はずいぶん広く、お堂や集会所がぽつぽつとある。日曜日の夜なので、もちろん閉まっている。
 ある小屋の窓からオレンジ色の灯りが漏れている。なかを覗くとオルゴール箱のように瀟洒な造りで、三十人ほどがオルガンの伴奏に合わせて賛美歌を歌っている。ちょっと時代がかかったように襟足をカールさせた色白の女性が、熱心に指揮をとっている。
 これは、カクレキリシタンの小屋、という設定なのだろか。
 引き戸が開いていたので、なかに入ってみると、ちょうど賛美歌は終わり、説法の時間となる。
 説教壇にあがったのは法衣をまとった僧侶で、「あなたの心の傷を縫合するのには、何針必要ですか?」みたいなそこはかとなく救われそうな話をし始める。前列にいる人たちは真面目に拝聴しているが、後列のほうは飽きて、こそこそと小屋を出ている。私も賛美歌が聴きたくて入ってきたので、出て行く。小屋の出口には、カモノハシのような顔のカラス天狗の掛け軸が飾ってある。アヒルのような嘴では、どうも迫力が出ないな、と思いながらしばらく見ていると、「じこじー」というぜんまい仕掛けの音を立てて、掛け軸が横にずれて、他の一幅が代わりに飾られる。貧相すぎる仕掛けで、どうにもならない。あらゆる信仰心を阻喪させる電気掛け軸である。

 もういいだろう、と木賃宿に向かって玉砂利の道を歩いていくと、向こうから三遊亭楽太郎がやってくる。こんなところに呼ばれたのか、と思ってさらに近づくと、楽太郎とは似ても似つかない酔漢である。
 ああ、いやだいやだ、と思ってすれ違ったが、彼は私と同じ木賃宿に泊まっているかもしれないのだ。目の前が暗くなる。
 坂を上って、木賃宿の裏手に出ると、そこは酒屋で、信じられないほど安い値段でペットボトル入りの焼酎を売っている。
by warabannshi | 2011-07-24 21:14 | 夢日記 | Comments(0)
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