庭の室外機のうえには衣装ケースがあり、そのなかには2匹の手のひらほどのアカミミガメがいる。私たちは引越しの準備の真っ最中で、どうしてもそのアカミミガメも連れていきたい。飼っていた記憶はないが、庭に生えているカエデが紅葉しているのをあのカメたちと眺めた記憶があるので、去年からはあそこに居るのである。
私は庭に出る。すると、呆れるほど多くの薮蚊が私の顔を刺そうとやってくる。顔をぼこぼこに腫らしてもつまらないので、ひとまず退散し、虫除けスプレーを顔中に散布する。
「重要なのは、スピードだよ。カは走っている人には追いつけない」
「そうか」
私はふたたびサンダルをつっかけて、アカミミガメのもとに走り出す。しかし、ヒトスジシマカの大群は苦もなく私に追いつき、不快な高周波音を響かせながら、私の顔を腫らす。