第544夜「正気」
 日蓮宗なのだということはわかる。私もそうだからだ。しかし、もともと布団屋だったと思しき、その平屋建ての家、というか小屋は異様で、壁面に隙間なくびっしりと、「日蓮を讃えよう」、「ただ一人を信じよう」などの文句が書かれた紙が貼り付けられている。それらの文句は、淋漓たる墨痕で大書されているのではなく、ワープロの明朝体でプリントアウトされたものをA3版に拡大コピーしたもので、6行が1セットになっている。それが目張りするように小屋を覆っている。文字の周囲の凸凹がノイジーであり、万年筆を握った右手を模した「手帳の高橋」のようなロゴが、ユーモアなのか、1枚に1つ、必ず記されている。さらに、出世術の覚書のような説諭(「信念こそが路を切り開く」、「毎朝四時起床、やるべきことを書きだそう」)も混ざっており、目を凝らすだけこちらの正気が削り取られていくような仕上がりになっている。
「太田さん、こっちです」
 名前の知らない後輩が呼んでくれる。今日は、名前の知らない、性別もどちらかわからない友人の、結婚式に列席するのである。
「これ、何年前からあるの? 一年や二年でここまで年季の入ったものにはならないと思うんだけど」
 私が元・布団屋を指し示そうとすると、後輩は影絵のように素早く、私を会場のビルまで案内する。商店街のアーケードに無理やり増築したその白亜の6階建てほどのビルは、無思慮という概念を具現したようで、なんとなく耳の底が冷える。
 会場は、そのビルの屋上である。周囲にこれといって高い建物がないせいで、広々としているが、いかんせん、商店街のアーケードの屋根と、立体交差点、あとは青空しか見えない。
 キッチュな教会型のモニュメントでは、準備が進んでいるようで、私はしばらく景色でも眺めていようとする。と、明らかに気の触れたベンチコートの男性が屋上を徘徊していることに気づく。しゃっくりのように怒鳴り声、というか何かに対する抗議・悲憤を発しているが、それがいったい何に対するどのようなものなのかわからない。あまりに間欠的すぎるのだ。
 この男性が結婚式場に紛れ込んだらコトだ、と思い、私はなんとか誘導して、彼を屋上から引き離そうとする。しかし、男性は手に持った模造紙を取り出し、強風のなか、それを声に出して読み始める。なにかの宣明文らしいが、5字くらいでぶつぶつと切れるので意味がとれない。
 ひときわ強い風で、その男性が両手を広げて持っていた模造紙が吹き飛ばされる。私は誤って、その紙を踏む。どのような内容であれ、心血の注がれたものを足蹴にしたことで怒られるかな、と思い、隣のMさんを見やるが、とくに何の表情も読み取れない。
 その一方で、男の悲憤は絶頂に達したようで、さまざまな呪いの言葉を発しながら、漫画のような筒状ダイナマイトを懐から取り出す。そして、「サン」の一言を残し、それに着火する。
 瓦礫と化した白亜のビルで、列席者と、ビルのオーナーはぼんやりと立ちすくんでいる。そのなかの一人が、ふと思いついたように言う。
「あれ、南町はなんもなかったよな」
「ちょうどいいな、ルミネでもやろ」
「おお、そうと決まったら早速」
 そんなことを言いながらごちゃごちゃと移動していく。
「いや、……しかし無理じゃないかな。鹿児島の一刻者が多いから」
 名前の知らない友人がつぶやく。
「おお、オレは大反対だ」
 名前の知らない、禿頭の、彼自身のものなのか、それとも焼いている鳥の脂か、両方かでてかてかのおっさんも賛意を示す。
「素っPにマーケティングやらせようと思う方があかんねん」
 他の知り合いらしき関西弁の男性も調子を合わせる。素っPの意味を知りたかったが、黙って頷き、アーケードを眺める。
by warabannshi | 2012-01-20 06:29 | 夢日記 | Comments(0)
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