第546夜「don't trust over 30」
 カラオケボックス、ということになってはいるけれど、構造的にはネットカフェのそれであり、つまり、各部屋を仕切る壁はぺらんぺらんに薄く、一番端の部屋で歌う「地上の星」が、そのまま全室に響き渡るという仕様。真ん中の部屋に友人Kらと三人で入室したのだが、もちろん歌う気は完全に削がれている。
「ジュース、もらってくるよ。何がいい?」
 友人Kの婚約者だという名前の知らない女性が気分を変えようと試みる。
「ウーロン茶」
「ジンジャーエール。あとお手ふきもお願いします」
 なぜか私の右手首には、鳥の糞らしき乾いた汚物がこびりついている。それもたまらなく不愉快だ。
 女性が部屋を出ていったあとで、友人Kが言う。
「一度、やってみたかったんだけど、なにも入力せずに【歌い直し】を押したらどうなるんだろう?」
「000-0000が選曲されるんじゃない?」
 私が投げやりに言うと、友人Kは、彼が言ったとおりにする。
 すると、選曲がなされる。曲名は「don't trust over 30」。
 南国の砂浜の入り江を、上空3メートルほどから見下ろすようにして、海側から撮られたムービーが始まる。ゴンドウクジラが数匹、白い砂が透けるほどにきれいな浅瀬の水を泳いでいる。水の中の黒い鯨と水底の影とがおなじように動くのに、どうも非常に心が惹かれてくる。
 私は風の運んで来る砂のにおいを嗅ぎながら、凡人が詩を作ることができるのは、30歳まで、30歳を過ぎても詩が作れたら、それは彼が詩人たる証拠、という先輩Mの言葉を思い出す。don't trust over 30。Mは今年、32歳になる。
 ゆるやかに曲がっている、ほの白い波打ち際に立つと、それまで気がつかなかった巨大なモノリスが波の合間に浮かんでいる。黒一色、というわけではなく、光沢のある砲金色の表面に、蛍光の紫と緑の筋が、まるで動脈と静脈のように走っている。
(エヴァンゲリオン初号機……)
 私は温い海水の中に足を踏み入れる。モノリスは静かに空中に静止している。間違いなくそれが落下すれば苦もなく押しつぶされて死ぬことはわかっているが、私はそのモノリスの直下に潜る。小さな、板チョコほどの大きさの直方体が、整然と、数千枚、鱗のように、モノリスの底に並んでいる。私は目眩をおこすほど荘厳な気分になる。柔らかい水をえぐるように、深く潜る。
by warabannshi | 2012-02-06 06:22 | 夢日記 | Comments(0)
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