第560夜「リー・ハラハ・ゴンゾ・レ・イロ」
 軒を貸したら母屋を取られる、の俚諺のとおり、ある雨の日に軒に生えた茸をそのままにしておいたら、あっという間に家のなかが茸だらけになった。茸はかなり早い周期で枯死し、そのうえにまた新しい子実体が形成される。おかげで、無彩色のマトリョーシカが、雛人形のように段々にならんでいるような珍妙なオブジェがいくつもいくつも、天井までそびえている。そのせいで、リビングは通る隙間もない。
 これはもう脱出するしかない。そう思い、私は飛行機のチケットを予約する。
 空港までの列車を地下鉄のホームで待ちながら、ふと、後ろを見やると、小学三年生くらいの少女がいる。リー・ハラハ・ゴンゾ・レ・イロである。まるで私の体を盾にして、正面からの風や視線をふせいでいるように、ぴったりと私の後ろにいる。
「久しぶり、というか、なぜ声をかけてくれないの?」
「声をかけたら振り向くでしょう? さっき、あの男の子のプリン、食べちゃったから顔を合わせたくないの」
 対岸のプラットホームには、遠征試合に行くのか、やはりジャージ姿に大げさなバッグを肩にかけた小学生の一群がいる。そのなかの一人が、バッグをごそごそやりながら、「あれ? あれ?」と首を捻っている。
「それで隠れているのか」
 と、振り向くと、もうすでにリーの姿はない。
 じつはこの時点で彼女は誘拐されており、車の助手席に押し込められていた。リー・ハラハ・ゴンゾ・レ・イロが目を覚ました時、彼女は男の車の助手席で、しっかりシートベルトもした状態で、信号待ちをしていた。
「今、何時?」
 リーの不適さはここに極まる。
「ジャンプの発売日」
 誘拐犯は答える。しかし、律儀にきちんと腕時計を確認して、「三時をちょっと回ったところ」。
 リーはしばし瞑目する。そして再び聞く。
「私で何人目なの?」
「四人目。この前は十五才、十三才、十才、ときて、君」
「減らしているんだ」
「ものは試しだから」
「ふうん」
 次の赤信号に引っかかる。フロントガラスはどうやって磨いているのか、びかびかと無暗に太陽の光を屈光させる。
「山本夏彦と、京極夏彦の面白さが、わたしはずっとわからなかったのね。あれは浄土宗の世界観にコミットしていないと笑いのツボかずれるんだって、最近気付いた」
「山本夏彦って誰?」
「知らなくていいわ」
 誘拐犯は仁王に踏まれている天邪鬼のような、珍妙な表情で、鼻の先を舌でなめる。
 リー・ハラハ・ゴンゾ・レ・イロは、誘拐犯の部屋に連れて行かれたようなのだが、難なく彼の顎を砕き、退出した。彼女を迎えに行くのはおそらく私の役目である。
by warabannshi | 2012-04-11 05:43 | 夢日記 | Comments(0)
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