第598夜「饂飩屋」
 西国分寺の駅の改札口のすぐそばにある饂飩屋の広告がうるさくてたまらない。透き通った関西風のスープが黒い背景のもとで掬い上げられたり、「こしのある太麺」が垂直にたわんで落ちてきて、これ見よがしにバウンドしてみせたりと意味がわからない。どうやら場所は、コンコースの階段から、扇形にいくつもの自動改札機の広がっている改札口の近くにあるらしい。ポップアップ広告のVTRでは、明石焼きの小さな店も映っていた。そこに行って文句をつけてこようというわけではない。ただ、広告で人を苛立たせるだけの味と工夫がなされているかを確かめに行くだけである。承知できない代物だったら、そのとき初めて堂々とこき下ろせばよい。
 私は支度を整え、西国分寺に行く。しかし、西国分寺駅には、そんな改札口はそもそも存在しないことに、電車のなかで気がつく。もしかしたら、東京のそれではない西国分寺駅だったのかもしれない。そう思い至ると、そうであるとしか思えなくなってくる。
 このまま電車に揺られていくのも癪なので、ひとまず存在している西国分寺駅の近くで饂飩屋を探して、そこで食べて帰ることに決める。
 下車すると、辺りの空気がずいぶんと粘土質の埃でけぶっている。どこかの小学校で運動会が催されているに違いない。あにはからんや、駅舎のすぐ裏手には高いポールが幾つも立っていて、万国旗がぶらさがっている。まるで耳のつかえがとれたように、十歳以下の子供たちの歓声が聞こえ始める。どうせ暇な身なので、ちょっと見物するつもりでそちらに行くと、入場規制がかけられている。この頃はどこもそうなのかもしれない。出入り口には、二人の屈強な警備員が立っている。運動会の催されている校庭で、一人の小さな男の子が、立ち止まってこちらを見て、また級友たちのほうに走って行った。校庭の出入り口の周りには、どてらを着た男たちが寒空の下、こたつに入って麻雀を打っている。牌の形が奇妙だと思い、よく見ると、USBを牌に見立てているのである。彼らの1人が、湯気のたっている店屋物の饂飩をすすっている。近所に饂飩屋はありますかと聞くと、男は無言のまま、割りばしで駅舎の地下街に続く階段を指し示す。礼を言って、その場を後にする。
 階段を降りると、子供なら乗れるくらいの模型の列車がレールの上を走っているのに出くわす。どうやら、模型列車は、円環型の地下街を周回しているらしい。そのレール沿いに歩いていくと、飲食店の並びにたしかに饂飩屋があり、4人くらいの行列ができている。私がその行列の最後尾に並ぼうとすると、後ろから袖を引っ張られる。振り返ると、絶望的な笑顔を浮かべた、女子高の制服を着た女性が立っている。なにかわからないことを、その笑顔をはりつけたままその女性は言う。おそらく勧誘だろうと思う。しかし、安い材木のような肌といびつな口角への衝撃のせいで、何を言っているのかわからない。私はその勧誘をふりほどこうと、レールに沿って歩き出す。しかし、その女性もやはり意味不明なことを言いながらついてくる。次第に饂飩屋から遠ざかっていく。公衆トイレを見つける。尿意はないが、さすがに入ってこないだろうと思い、まるで檻のなかに逃げ込む四足の動物のように、小走りに駆けこむ。
by warabannshi | 2012-12-14 07:11 | 夢日記 | Comments(0)
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