第601夜「従業員」
 小雨が降っているせいか、遊園地には見知らぬ3人の友人たちと私以外は誰もいない。辺りは薄暗いが、閉園時間が近いのかというとそうでもない。曇天はぼんやりと明るい。ゴーカート乗り場の柵沿いに歩いていくと、立方体のコンテナが立ち並ぶ、奇妙に曲がりくねった小道に入る。それまであまり気にしていなかったが、私たちの誰一人として傘をさしていないので、それぞれの髪からしずくが垂れている。
 従業員用にしたところで、あまりに狭くて低い金属製のドアを開けると、そのコンテナのなかは小奇麗な中華料理屋である。そこにも、客と思しき人は私たちの他にはいない。店内は外から見たコンテナの体積よりも明らかに広く、しかも、奇妙なことに、壁の外側からは、何組もの家族連れが行きあっているような高低入り混じった話し声や笑い声が漏れ聞こえてくる。
 私は座って乾かすことができることに満足したので、そんなことはどうでもよく、隙間風が入ってきそうな壁から離れたテーブルにつき、それまでやけ気味に何も考えずにいたことをやめ、品書きを見た。すると、注文する前から、料理が運ばれてくる。他のテーブルに客はいないから間違えられたわけでもない、作り置きを出してきたにしては湯気が出ている、いや、私は数瞬と感じられていたこのあいだに、注文したことを忘れたのだろうか。私は名前を知らない友人たちの顔を見る。すると、そこには私と同じか、それより年下くらいの若い父がおり、アナログの黒い一眼レフカメラを両手のなかでくるくると回しながらよくわからない言葉で、しかし軽妙にそのカメラの性能の素晴らしさについて語っている。
 いつの間にか、天井と壁はなくなり、よく晴れたテラスで、灰色のコンテナに囲まれて、私と若い父は向かい合って座っている。テーブルの上には、相変わらず2人分の揚げものの皿と、あと乳幼児が使う、ひっくりかえしても中身がこぼれないストロー付きの透明なマグが1つ、置かれている。いつの間にか真っ白なテーブルクロスが敷かれている。濡れたアスファルトの匂いがする。私はどこかに非常な懐かしさを感じるが、薄い何十枚ものカーテンに遮られているように、それが何のかわからない。
 父の話が一眼レフカメラから水族館のイルカに移ったところで、私は冷めかかっている料理を食べることにする。鳥のささみをチーズと一緒に揚げて、円筒形のそれを斜めに切ったもので、かかっている黒いソースはバルサミコ酢らしく中華料理の要素はまったくない。
 噎せて、思わず咳をすると、白いテーブルクロスに青緑の蛍光色の飛沫が散った。
by warabannshi | 2013-01-02 10:16 | 夢日記 | Comments(0)
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