第612夜「蚊」
 「蚊を1000で6回割ると、人生を救う答えが出てくる」という難問を解きに、全国の猛者が××駅(固有名忘却、漢字2文字)に集まってくる。××駅を出る特別列車には、車両いっぱいに無数の蚊がとき放たれ、何百回でも、何千回でも、1000で割ることができるようになっているという。
 ××駅の構内は広く、コンコースが入り組んでいるくせに誰もいず、埃っぽさのない乾いた空気が高い天井まで靴の音を響かせる典型的な過疎地の駅である。物見遊山で来た私は、なるほど、と思う。おそらく「蚊を1000で6回割ると、人生を救う答えが出てくる」という珍問を巷間に広めたのは、この駅の関係者だ。この過疎地に多くの人を呼びこむための、いわばルアーなのだ。珍問に踊らされて、××駅にはるばるやってくるとは良い面の皮だ。こんないい天気の日に××くんだりまでやってきて、特別列車に乗るための電車賃を支払い、蚊に刺されて帰るのだから。
 そんなことを思いながら、特別列車が出るはずのプラットホームまでの階段を昇ろうとすると、階段はすべてエスカレーターで、おまけにすべて降りる方向に向いて動いている。
 なるほど、と私は再び思う。この程度の苛立たしさで音をあげるような奴は、とてもじゃないが何億匹もの蚊がうなっている車両で精緻な思考など行えるはずがない、という主催者側の課した試練だな、…と知的豪傑たちが思い込むであろうことを予期したギミックである。所詮田舎駅と、内心、侮りもあったが、これは感心せざるを得ない。
 逆向きのエレベーターを勢いよく駆け上がるも、しかし途中で息が切れて、大人しく階下まで運ばれてくる。息を整えていると、スーツの男がやってくる。雰囲気からして、「蚊を1000で6回割る」ために××駅に来た男だ。エレベーターの横で息を整えている私に、男は気づく。
「大丈夫ですか?」男の慇懃な問いのなかに微かな軽侮が混ざっていることを、私は聞き逃さない。
「大丈夫です。エレベーターを昇っている途中で、うっかり笑ってしまって」
「あ、これ、全部下りなんですね」
 男は納得したように笑い始める。これは愛想笑いではなく、本当に面白がっているように聞こえる。いつの間にか男たちは6人に増えており、揃いのスーツで粛々と逆方向のエスカレーターを昇って行った。もしかしたらあれはWORLD ORDERの面々だったのではないか? 私は息も整ったので、今度は無理に駆けあがろうとせず、少しずつ段数と高度を稼いでいく。
 プラットホームには、すでに何十人もの猛者たちが集まっている。東海林太郎やCさんの姿も見える。Sさんは見当たらない。大きなスケッチブックを広げて、周囲の人たちに「蚊を1000で6回割る」ための理論式を説明している人がいる。どうやら彼はその方法にたどりついたらしいが、「余り」として生じる100兆を超える蚊の破片が問題なのだという。
「あの人がO医師ですよ。最初から2番目に会場入りしたんです」
by warabannshi | 2013-03-15 06:43 | 夢日記 | Comments(0)
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