第657夜「玩具(ピエロ)」
 産道のような地下街を、名前の知らない気の置けない仲間たちと一緒に歩いている。時刻は早朝。店舗はシャッターを閉めているが、冷え切った地下街の通路の床にはたくさんの人が坐りこんでいる。制服姿の女子高生がスカートから突き出した両脚をぐるぐると包帯で巻いて、地面に敷いた段ボールの上で眠っている。怪我をしているのではなく、防寒のためである。しかし、塹壕戦の傷病兵のように見える。何かの売り出しを待っているのだろうか。産道めいた地下街にいる人たちが行列を作っているのだとしたら、まだ最後尾は見えていない。
「俺、もう帰りたくなっちゃったよ。ここまで来るのに疲れ果ててしまった」
 アメリカン・カジュアルな格好に身を包んだ仲間の1人が言う。
「休んでおけよ。まあ、ネットカフェなわけだけれど」
 別の仲間が言い、他の仲間たちと、そしてそれを聞いた地下街の地面に座っている人たちも一緒になって、笑う。知り合いなのだろうか。
 ぞくりと、背中を削られるような悪寒がして、振り向くと、いま私たちが歩いてきた産道の出口の方から遠く、1体のピエロの玩具が陽気に跳ねながら近づいてくる。とてつもなく嫌な予感がして、私は仲間にあの玩具から逃げようと言おうするが、仲間たちは誰もいない。私はとっさに、壁を向いて、地蔵のように気配を消すことにする。発条足のぎしぎしという音が背中のほうで近づいてくる。そして、それが十分に離れたところで、私は地蔵になるのをやめて、慎重に振り向く。
 ピエロは相変わらず跳ねているが、不意に自分とそっくりなピエロの玩具を見つける。それをしげしげと見つめた、と思いきや、ピエロの頭は電動泡だて器のホイールのように回転し、自分とそっくりな玩具の頭をあっという間に粉々にする。ピエロはその頭のままで、産道の地下街を跳ねながら、その地面に座って恐慌状態となった人々をまったく機械的に血祭りにあげていく。逃げようとした人の1人が、宙に浮いた何千万もの正露丸のような金属球の群に襲われ、壁に打ち付けられ、極微の網のハエ叩きで潰されたハエのようにミンチ状になって死ぬ。その金属球の群は、意思を持った赤い霧となって、次々に人を襲っていく。
 私は、自分が無事であることに笑いたくなるほど安心していたが、ふと気がつくと、左足を置いているところの床が剣山のようになっている。慌てて左足を持ち上げると、鋭い剣山の先端はぐいっと伸び、常に私の左足の裏と甲を貫こうとする。私は右足だけで立ち、左膝をまげて左足を腰のあたりで右手で持つことで何とか一定の安定を得るるしかし、苦行者ではあるまいし、この恰好でずっと居続けるわけにはいかない。どうすればいいのか。
 ピエロが来た通路の方から、腕相撲芸人が歩いてくる。つまり、なりは小さいが腕っぷしが強いので、賭け腕相撲で日銭を稼ぐ路上の芸人が。
「すみません、ちょっとその段ボールをお借りしても良いですか」私は言う。「その段ボール1枚を、私の左足のあたりに敷いていただきたいのですが…」
 もちろん、段ボールでピエロの悪意が防げるとは思っていない。しかし、藁しべが浮いていればすがるべきである。寡黙な腕相撲芸人は、黙ってその段ボールを私の左足のあたりに投げ出す。私はそろそろと、痺れた左足を下ろす。なんともない。段ボールの外に、左足を置く。やはり、なんともない。何がきっかけだったのか、よくわからないが、私の左足は穴だらけにならずに済んだことが、私を非常に愉快な気にさせる。
by warabannshi | 2014-04-14 05:05 | 夢日記 | Comments(0)
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