第659夜「南海」
 私は名前を知らない同僚とともに、課長室のドアを開ける。かつて上官であった課長は、リクライニング機能のついた椅子によりかかって天井を眺めている。
「意見具申!」私は直立不動して言う。
「もうその言い方はやめろと言ったろ」
 道成という名前の課長は、半ばうんざりしたようにそれでもこちらを向く。
「わたくしはやはり、あの死体が死にきっていたとは思えないのです!」
 名前の知らない同僚が私の隣で、やはり直立不動で雑なスピーカーのように声を張り上げる。そうだ、と私は思い出す。南海の孤島で、私たち3人は低緯度に特有の星座の下、匍匐している。まるでNHKの人形劇のように、星座は白い線で夜空に描かれている。椰子の木は、何十回も、別々の話で、ここが何回の孤島であることを示唆するために使われたであろうフェルト製の椰子の木である。明るい真夜中を匍匐している私たちは、ふと、海岸で燃えている1つの死骸を見つける。正確に言えば、明瞭にヒトの形をしたものがうつぶせになって燃えているのを見つける。
 私たちは砂浜で海亀の産卵を見つけたときのように、その死骸が燃え尽き、炭化したそれの一部が崩れるまでじっと物陰で、椰子の木のかげで、1つの無骨な双眼鏡を回しながら観察していた。炭化しているのだから、生きているはずがない。しかし、生きているはずがないことが死にきっていることを保証するだろうか。名前の知らない同僚はそう言いたいのだろう。そう思い、私は隣を見ると、誰もいない。いつのまにか私は、巨大な液晶テレビの前で、休めの姿勢をとっている。液晶テレビは私の記憶のなかであるはずの人形劇の南海を俯瞰で映したまま、一時停止されている。
 私は堪らなく恐ろしくなり、課長室であったはずのその部屋を出る。痰が喉にからみ、吐き出そうとしても、うまく吐き出せない。犬のように噎せながら、私はどこでもない廊下を早足で逃げる。
by warabannshi | 2014-05-19 02:39 | 夢日記 | Comments(0)
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