第678夜「狸」
 中学生の頃からの友人と、久しぶりに行った町はずれの崖の下にあるカレー屋は、いつの間にか風俗店となっており、肌艶と雑談の言語から類推するに、明らかに不正入国者ばかりが働いてている。友人となんやかんやと議論していたせいで、まったく気づかずに店内に入った私たちは、かまちのところで立ちすくむ。
 「すみません、間違えました。カレー屋かと」。勿論、そんな言い訳が通るとき思っていない。しかし、
 「あ、カレーのときからのお客様でしたか」。
 風俗店は一瞬にして、景気の良い盛り付けが売りのカレー屋に戻る。狸に化かされているかのようだと思っていると、やはりそのようで、感心した私は、その場にいた一人を身請する。
 そして無論、私のせいではないが、2年後に彼女は身罷る。交通事故だったかもしれない。よくわからない。しかし、彼女はもういない。私は泣きに泣き、町のすべてが私と彼女の死骸と記憶もろとも水没することを願う。しかし、彼女はいない。朦朧とした意識のなかで葬儀のことをどうしようかと悩んでいると、夜更けに、彼女の眷属たちが私の部屋を訪ねてくる。
「彼女の葬儀はこちらであげさせていただきます」
「しかし、異類の身で婚姻の契りを交わしたあなたにも来ていただかねば」
「無論です、無論です」
 私はあいかわらず泣き顔のまま、町はずれまで狸たちに手を引かれていく。さぞ異様な風体に見えるだろうと思うが、町に人は誰もいない。正確に言えば、私たちが往く通りのすぐ横の通りはいつも通りの賑わいを見せている。私たちが往く通りにだけ、人払いがなされている。
 町はずれのカレー屋のあったところで、私は彼女の眷属らに、この地域における伝統的な葬儀の次第を教えてもらう。まず、私は葬送の出発点となるこの崖の下で、彼女を偲び、泣く。婚姻が、けっして欲得ずくで行われたわけではないことを証しだてるために。私の涙は枯れ果てることなく流れ続けていたので、私はいっそう大きな声で泣く。
 いつしか涙はくるぶしから膝下、腰のあたりまで達する。その水面の上を、彼女の遺骸を載せた小舟が滑るように現れる。小舟は、夜の闇のなかに並んで立つ、巨大な力士の股の下を、控えめなさざ波とともに移動していく。
「さあ、一緒にお送りいたしましょう」
 私もまた、百鬼夜行の類に仮装した彼女らの眷属とともに、小舟と併走するかたちで町の方へと進んでいく。小舟はいよいよ町に差し掛かる。碁盤の目のようになった15の通りを、ひとつ、またひとつと、小舟と私たちはまたいでいく。私たちがまたいだあとの交差点には、しばらくしてからごく当たり前のように自動車が走り出す。それがまるで、幻燈の暗幕が閉じていくようだと思う。
 ふと、私は小舟と私たちがどこに向かっているのかを知る。カレー屋とは町を挟んで反対側にある、私の家だ。小舟は私の家の裏口に、私は家の玄関に立つ。私が玄関のドアを開けると、彼女がいつものように私を出迎えてくれる。彼女は、私のお腹のなかに赤ちゃんがいるの、と私の耳元で囁く。私は死骸であるはずの彼女をきつく抱きしめ、鼓動を感じ、その髪を手でくしけずる。


 漫画を読んでいるのか、そういうアニメを観ているのか定かではない。実写作品でないことは間違いない。しかし、頁を捲る感覚はない。宙に浮いた眼球だけが浮いて紙面を読んでいるわけではない。夢そのものが、ひとつの漫画かアニメを映すブラウザであるような感覚がある。電子書籍はこのように動いているのだろう。その内容は、上記の通り。
by warabannshi | 2014-08-21 11:20 | 夢日記 | Comments(0)
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