自分が操縦しているこの軍用輸送機が、ゆっくりと死地におもむいているのは、なんとなくわかっている。
イヤでも先へ進まなくてはならないことも、帰りのぶんの燃料がないことも、わかっている。
この軍用輸送機の中にいる十数人は、黙ったままだ。
でも、なにをするために死地におもむいているかは、わからない。
たぶん、コクピットの隣に坐っている戦友? も、後ろに坐っている十人ぐらいの落下傘部隊の兵士たちも、これから何をするか、わかっていない。
おまけに、その死地とは戦場ではなくて、南極のことなのだ。
南極で、いま、何が起こっているのだろう?
というか、なぜ南極?
そう思っていたら、「いいからオマエは逃げろ!」みたいなことをとなりで操縦桿を握っていた戦友? に突然言われ、次の瞬間、二人乗りのコックピットの座席から、機体の後ろの方に、強引に押し出された。
機体の後ろで待っていた落下傘部隊の兵士たちが、すばやくコックピットから追い出されたうちを抱きかかえ、パラシュートを装着させて、あっという間に輸送機の横腹から、うちを放り出す。
嬉しいけれど、釈然としない。
操縦士が二人いないと、輸送機は南極まで着かないんじゃないか?
それとも、うちは最初から操縦なんかしていなかったのか? コックピットにいただけ?
そう思っていたら、パラシュートが開いた。
どうみても、着陸するには高すぎる高度。
なすすべもなく、ずんずん風に流される。
切り立った崖の岩肌にたたきつけられて、パラシュートがしぼみ、ようやく地面に到着したが、あいにくネコになってしまっているうちにはパラシュートの外し方がわからない。
「はやくしろ、オカピが来るだろ!」
なんか他のネコが叫んでいる。
オカピが来るとまずいの?
オカピって、鹿にそっくりな草食動物ではなかったっけ?
よくわからないまま、パラシュートを引きずり、他のネコのところに駆け寄る。
「あいつら、ワナを張ってやがるから、気をつけろ」
ありがちな警句とともに、ネコが先頭を走り出す。
とにかく、オカピから逃げるために、彼の後ろについていくと、森の中では、たくさんの一斗缶が逆さまになって、地面に半分埋もれている。一斗缶と一斗缶のあいだには、細い釣り糸が何本もはりめぐらされている。
これはオカピの仕掛けたワナだ。
間違いない。
そう確信したとたん、前を走っていたネコが、一斗缶の一つをひっくりかえした。
おいおい。
一斗缶の中からは、信じられないことにトラが出てきた。
同じネコ科なら、話せばわかってくれるかもしれない。
そう思ったら、すでに人間に戻っていた。