探索記録24 「利用可能な快楽の種類」
 大学の友人二人と待ち合わせて、だいたい一年ぶりに秋葉原の電気街に行った。電気街といえば、いわゆる「アキバ」と呼ばれる一帯で、ラジオ部品、家電、パソコン部品、ゲームソフトを扱う大小さまざまな店が秋葉原駅を中心とした同心円状に開かれていて、今日はアニメに詳しい友人のガイドで秋葉原駅から少し離れたところにあるアニメイトと、同人誌やアダルト系のパソコンソフトの店を数軒回り、へとへとに疲れてきた。
 電気街は特殊な場所で、そこで偉そうなことや利口そうなことを言おうとすると、なぜかすごく情けない振る舞いに見えてしまう。正論をもっともらしく語る人が情けないのは当たり前の話だけれど、たとえば歌舞伎町や渋谷みたいな猥雑な繁華街の居酒屋でも、いったん饒舌な人が作りだすペースに巻き込まれると、情けないはずの「もっともらしい正論」を許容できてしまう構えが聞き手や話し手自身の双方のなかに生成されてしまい、聞き手はついつい相槌なんて打ってしまって、対話が一過性のまとまりの良さへと向かう誘惑に踏み止どまれなくなる。けれども電気街では、そうやって対話のなかで概念系にもたらされた正統性(つまりは、情報の圧縮-縮減、ある種の形而上学)を、一瞬のちに電子テクノロジーの配給する膨大な情報量が浸食し、押しながして、また人間を不安と戸惑いのなかに戻していく。この周囲に蔓延したテクノロジーが持続させる不安と戸惑いが電気街に特殊な風土だと言っても言葉のあやではない。
 電気街に集積されたテクロノジーは人間に情報総体としての全体の開示を要求しないことを教育するけれど、(「もっともらしい正論」を双方が許容したときの健全な喜びは、全体を認識する作業の節約-代行ルーティンの形成の成功に依っている)、そういう場所で花開いたのが、顔と比べて大きな眼とプラスチックのように襞のない皮膚、無数のモードを搭載した無個性なキャラクターへの想像的一体化-共犯-感情移入にプレイヤーを誘い込む一連のゲームソフトやアニメ作品なのが面白い。たいして運動してもいないのに、そこに居るだけで体の芯から疲労したように錯覚させる地域から生まれたこれらの装置は、いままでモノを所有する振る舞いによって配給-配置されてきた快楽とは異なる種類の快楽を、快楽の受け手に示唆する。端的に言えば、それは所有の廃棄を目指す道のりで得られる快楽だ。

 
by warabannshi | 2006-11-08 00:52 | メモ | Comments(0)
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