(*1)
明朝、バスに乗って温泉に行くことになっている。そんな夜更け。
どこかからの帰り道。間違って笹塚駅で降りると、新宿にいると思しき友人Iから電話。
「いま笹塚にいるんでしょ? これから飲まない?」
「そんなに笹塚成分が足りないの? カレーなら付き合うよ」
「カレーか、いいねえ」
笹塚でカレーといったらジャイヒンドかエムズカリー。どっちにしようかな、と考えていると、すぐにIが来る。
ふつうよりもごちゃごちゃした、ボーリング場と廃れた花壇がやけに印象的な笹塚駅を後にしてなぜかカレー屋ではなく、へんてこなつまみ屋に行く。
ビール樽を利用したテーブルに座っていると、リンゴと豆と青トウガラシをアルミホイルでくるんで焼いた料理。あと、リンゴとエリンギと胡椒の料理が出てくる。リンゴにはシナモンがたっぷりとふりかけてある。
「ミンダナオ島の風土料理にこういうのなかったっけ?」
「さあ」
食べてみると、なかなか美味しい。とくにエリンギとリンゴの組み合わせ、エリンギの歯ごたえとリンゴの甘味がよく合っていて素晴らしい。
(追記)
「リンゴは想像力を刺激するんだよ。それは聖書に書いてあるからじゃなくて、リンゴがブラックホールとホワイトホールを持っているから。リンゴのヘタの部分と、ヘタの対蹠点、そしてそれを繋ぐ種子が、つまり――。」
と一緒にテーブルに着いた誰かが言っていたような気がするけれど、思い出せない。
(*2)
高校の教室の晴れた窓際で、保坂和志氏といろいろ話している。
掃除中なのか、机と椅子が全部、教室の後ろに下げられている。
「人間が、非生物と生物を感じとるメカニズムは違うと思うんですよ」
「それは第六感で、ってこと?」
「知覚であるには変わらないんですが、といってもシュタイナーみたいに超感覚はなしで、一般的に五感として知られているような感覚領域の話です。人間が非生物を感知するときは、それがそこに“ある”と感想を抱くとすると、生物を感知するときは“ある”と同時に、そこで“維持されている”という感想も同時にいだくと思うのですが」
「どっちも“維持されている”ものだと思うけどね」
「そうですか」