第77夜 「行きて還りし物語」
 すでに街の一部になってしまっている廃船。廃船の周りを取り囲むようにして街ができている、と言っても良い。前方後円墳の周りに街ができているようなものだ。その街は、友人Uのアパートや紙製F1レースが行われたことのある、“あか抜けた練馬”。
 ただし、“練馬”はいまは煤けている。鉄コン筋クリートの宝町のような雰囲気。油煙を出す工場が多いせいなのか、街並みが褐色。もしかしたら、“あか抜ける以前の練馬”なのかもしれない。実際の練馬には油煙を出す工場があったことはないし、臨海都市だったこともない。豊島園があるくらいだ。

 “練馬”に取り囲まれた廃船のなかで数人と暮らしている。その数人は家族なのだが、血縁関係はない。疑似家族というわけでもない。父も母も最初から存在しない家族。兄弟姉妹だけでも家族はなりたつのだろうか? その兄弟姉妹も血縁関係にはないのに?
 とりあえず、廃船に住んでいる家族の全員が、貧乏である点は共通している。低所得なので街から追い出されたのか、追い出されたから低所得になったのかわからない。この一つの家族がまるごと被差別民なのだったらわかりやすい。だとすると、この廃船は“練馬”ではないのだろうか。同じくらい油煙に煤けているのに。(この廃船があるせいで“練馬”が煤けているようなものだ)
 用事があって“練馬”に出かける。ザリガニを買ってこい、だったか、ザリガニを獲ってこいだったかわからないけれど、自分の身長と同じくらいの食用ザリガニを獲ってくるために廃船から出かける。途中で友人Bに会い、とりあえず一緒にザリガニを獲ることにする。
 だが、ザリガニばじつは“練馬”にではなく廃船のなかにいた。
 ザリガニが廃船のなかにいることに気がついたから二人は“練馬”から廃船に戻ってきたのではない。いつのまにか二人は廃船にいて、さらに木製の押し扉をあけるとそこに二本足で立った食用ザリガニが潜んでいることがわかっている。まるでショッカーの怪人だ。
 シュミレーション――
(うちが扉を開けて、①ザリガニが飛びだしてきたら、扉脇で待ち伏せしているBがザリガニを棍棒で殴り倒す。②ザリガニが押された扉の反対側にいて部屋にはいってくるうちらを待ち伏せしているのだったら、扉ごとザリガニを銛で貫いて倒す。③ザリガニが人語で命乞いをはじめたら仲間にしないでもない。)
 扉を押し開ける。だが、そこに間違いなくいるはずのザリガニはいない。
 それどころか、その部屋は廃船に住んでいる家族の居住スペースで、数人が煮炊きや、ハンモックで睡眠をとっているはずなのに、一人もいない。いままで人間が住んでいたような気配もない。
 巨大な食用ザリガニが、家族全員を食べてしまったということも考えにくい。というのも、部屋には人間がいた気配すらないからだ。血痕なんてもちろんない。
 それにしても、いま、この“練馬”に人間はいるのだろうか?

 ――という夢を見たのだと、公民館で友人Bに話している。旧式のテープレコーダーが回っていて、いままでの自分の話が録音されている。
「その夢のなかで最終的に俺は消えちゃったの?」
「覚えてない。というか、視点がベガンにいかなかった」
「視点がいかなくても、消えたか消えないかわかるじゃない。扉の向こうに、ザリガニがいる! ってわかったように」
「いや、でも最後のシーンは見てるものしかわからなかったの。」
 公民館は山の一本道の県道をぐねぐねと曲がりながら行ったところにある。
 たぶんここで一泊し、夢を記録し合うセミナーのようなものをやっているのだろう。山本直樹の『ビリーバーズ』と設定が似ている。ただし、宗教がらみではなく、なにかの実験として夢の筆記は行われている。実験の主催者は不明。うちではない。Bでもない。夢の記録を何に使うつもりなのかもわからないが、録音担当はうち。
 公民館をあとにして、テープレコーダーを入れたナップサックを交代で持ちながら山を下っていると、Hが上ってくる。Hは一日も遅れてやってきたのだ。
「遅いよ、一日遅刻ってどういうことだよ。メールは返ってこないし。アンドロメダ星雲にでもいたのかよ。死んでしまえ。」
 うちが罵倒すると、Hは目を見開いて、心臓の当たりを押さえる。もちろん冗談だ。
「太田君、すごく暖かそうな格好してるけど、なんで?」
 やはりフリースと、毛糸の帽子・マフラーの組み合わせは暖かそうに見えるだろうか。というか、うちは寒がりに見えるのだろうか。
「ほら、そろそろ交代。」
 Bがテープレコーダーの入ったナップサックを押しつける。
 びっくりするほどナップサックは重い。交代するたびに重くなっているような気がする。
by warabannshi | 2008-02-19 09:55 | 夢日記 | Comments(0)
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