第95夜 「死者がパンチングマシーンで物質化する/冷感症の女性がパンチングマシーンで正義を行使する」
(*1)
 白洲次郎を数倍に希釈したような中年男性の葬式がおこなわれている。交通事故で二人を巻き添えにして、自身もシートベルトをしてなくて死んだドライバーというのが、その男だ。そして、その男とは、どうやら自分らしい。
 黒い額縁に入れられている写真を見る。顔つきが自分ではないようだが、死んだ後に見る自分の顔とはそういうものなのだろう。ところで、死んだ顔を見ている表情というのは、どういうものなのか? 鏡で確認しようとするが、室内灯が反射している窓には姿が映らない。たしかに死んでいる。臨死体験とかではなく、死にきっている。

 男=自分には婚約者がいたらしく、真っ白いウエディングドレス姿で芳名帳に名前を書いている女性がいる。葬式と結婚式が並行しておこなわていれるらしい。
 死者と結婚する場合、①最初から彼女は未亡人となるのだろうか? それとも、②永久に結婚しつづけることになるのだろうか? ③切腹したりして殉死するのだろうか? ところで、巻き添えで死んだ二人の遺族の人たちが、この葬式×結婚式のことを聞き知ったらやっぱり、激怒するだろうか?
「彼岸の時間において、二人が永遠に結ばれることを祝いまして――」
 研究室のK先生が弔辞と仲人をいっぺんにやっている。どうやら、②として認知されるらしい。なんとなく、めでたい。
「いや、しかし彼岸の時間において永遠というのは成立しうるのだろうか?」
 参列者の一人から質問が飛ぶ。
 K先生が日本仏教の輪廻思想をもとに説明をはじめるが、説明を聞いているほとんどの人が、何を説明されているのかわっていない。説明は懸命になされるが、それだけ複雑化する。
「一般人にもわかるように説明して下さい!」
 説明の途中でおばさんが叫ぶ。うちも死者として議論に参加したいが、死者では無理だ。

 白熱する議論に参加できないのでだんだん欲求不満になってくる。
 式場を抜け出し、ゲームセンターに行くと、昔懐かしいアーケード型パンチングマシーンがある。一ゲーム、百円。16オンスぐらいの赤いグローブで、屹立した赤いバーを思い切り殴りつけて点数を出すやつだ。さっそくやってみて、怪人の顔をぼこぼこにする。
「あれ、うち、死んでないじゃん?」
 いつからうちは物質化したのだろうか? 欲求不満になったときか? desireが物質化を促進したのか? 対消滅と対生成の神秘。ファインマンとセグレを読み直そう。こんなことなら鏡を持ち歩いて、自分の姿が映るか映らないかをいつも確かめていればいればよかった。

(*2)
 オーガズムに達せない二十代中頃の女性になっている。食事療法で感じやすくする合宿に参加している。合宿地は、以前は友人Uの部屋として使われていた木造アパートの一室。以前は火事でいたるところに焦げ痕があったが、それは目立たない。ただし、十畳くらいの和室の隅には大量の布団が積まれている。
「ハゲの半分は食事療法で治るんですよ」
 職員はそういって資料ビデオを見せる。どう考えてもハゲの心配をしないでよさそうな五歳児とかもハゲ矯正合宿に参加している。とくに海藻ばかり食べているわけでもない。
 そのあとで、数週間、合宿に参加する。
 そして、合宿の平板な生活に耐えられなくなって、ゲームセンターに行く。
 やはり一回百円のパンチングマシーンがあるので、「3回殴って拷問を止めろ」の指示に従い、画面にあらわれた加拷問中の尼僧の顔をぼこぼこにする。


(追記)
 思い出せた二つの夢は自慰と自慰を越えることに関する覚書。「アンドロイドのための人間入門」、旧暦・師走六。自慰とフラケンシュタイン・コンプレックス。造物にまつわる文化的忌事。けれど、生理学的には――? 虚脱の不自然な外観が死体と共通することをもってして、それをヒューマノイド(ポリゴンの人)と短絡するのは早急だ。自慰を事後的にふり返っても退屈。むしろ、アンドロイドを駆動させつづけるのは永久にオーガズムに至らない鬱血。
by warabannshi | 2008-03-08 09:46 | 夢日記
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