第100夜 「カタルーニャ地方の草原地帯に、ひし形だけが在る」
 スペインのカタルーニャ地方の草原地帯に、ひし形がある。
 ひし形が、巨大なのか微小なのか、それはよくわからない。空一杯に輪郭だけがある無色なひし形が浮かんでいたようでもあり、雪の結晶のようなひし形がふと顕微鏡を見るように見えたのかもしれない。どちらともつかないが、ひし形は在り、ここはカタルーニャ地方だ。


(追記)
 それにしても、大きさのわからない図形だけが在る、とはどういうことなのだろう? どこかにひし形の三次元体(イデア?)があり、その影が中空に揺らめいていると考えればいいのだろうか? 物質的なくびきを無視して、“ただ図形が在り得るここ”を表計算ソフトのなかだと想定すればいいだろうか?
 “ただ図形が在り得るここ”とは、もちろん生気論的な宇宙像とは異なるが、また機械論的(ハード)な宇宙像に巻きこまれるようなものでもない。それらとはまったく違う。起動している演算ソフトが“まるで生きているかのように”感得されるとき、そして一抹の不気味さと愛しさがつり合うときにふと懐かしいヴィジョンとして立ちあがる、あの無限に平坦な場所のことだ。
 だとしたら、そこがカタルーニャ地方の草原地帯だとは、いったいどういうことか? 一度も行ったことのない場所に、懐かしさを感じることがあるだろうか。一度も行ったことがない場所だからこそ、“懐かしさ”だけが際立つのだろうか。デジャ・ヴュ(既視感)? いや、“以前に来たことがある”という感覚はなかった。
 “以前に来たことがある”記憶もないのに“懐かしさ”を感じたときに、人間は“前世”を発明したのだろうか? 
(註:理工学部の友人たちと話したとき、ほとんど夢を見ないし覚えていない、と彼らは言っていた。けれど、彼らの見る夢が図形や計算式、あるいはモーション・キャプチャの動作データのようなイメージが横溢するものだったとして、それを夢だとは思わないこともあり得るのではないか。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。フィリップ・K・ディックは炯眼だった。)


(追記)
 恋人は前世、というか死後の世界の存在を信じていて、「まぎれもなく(前世、死後の世界は)ある」と言い切るのだけれど、そうやって「ある」と断言するのも、そこはかとなく攻撃的で奇妙なことだ。

 今月の初めにメールで死後の世界の話になったときに、
「うちは死後の世界、前世はないと考えています。けれど、有限の寿命をもつ人間にとっては死後の世界、あるいは前世としか示しようがなく、またそう表現するのがもっとも適切である広大な領域は間違いなくあると感じます。そして、それが在るとすれば、いわゆる現世から切り離された限定された領域ではなく、現世の二重写しのように、現世に遍在していると思います。thinkとfeelで結論が違います。」
と言ったら、何を言っているのかよくわからない、との返信をもらった。
「二十二年間、生きていて思うのは、在ると仮定するほうが無いと仮定するより、よっぽどシンプルに世界を理解できるのではないかという事です。天動説で惑星の軌道を計算するより、地球が動いていると仮定する方が計算がずっと自然で簡単になるのと似ている気がします。」
 地動説よりもプリミティブな宇宙観である天動説が、「前世なんて無い」と考える唯物論的なものの見方と彼女のなかで対応しているところが面白い。

 彼女の考え方は、パスカルの信仰論に似ている。下の文章の「神」を「前世、死後の世界」に置き換えるとそれがよくわかる。
「神があるかないかどちらともわからない。しかし、そのどちらかであることは確かである。したがってサイコロで言えば、「神あり」という目と、「神なし」という目と、目の種類が二つあることになる。「神あり」の出る可能性はゼロはないわけだから、少なくとも一つだろう。「神なし」の出る可能性は大きくても有限数だろう。ところで、賭けて失うものと、賭けて得られるものとの関係はどうなっているか。「神あり」に賭けた場合、地上の幸福は失っても無限の幸福が手に入る可能性がある。「神なし」に賭けた場合、地上の有限な幸福は手に入るが、無限の幸福を失うことになる。したがって「神あり」に賭けた場合の利得の可能性は「1×無限大」であり、「神なし」に賭けた場合の利得の可能性は「有限×有限」である。二つの間には無限と有限との違いがある。無限は有限を限りなく越える。したがってわれわれは「神あり」に賭けるべきである。」
(http://yukinoshita.or.jp/original/history13.htmより転記)
 だとしたら、「まぎれもなく(前世、死後の世界は)ある」という彼女の断言は、掛札に書かれたサイコロの番号、あるいは宝くじの番号の表明にすぎないのだろうか?

 けれど、夢のなかで「ここはカタルーニャ地方の草原だ」「ひし形がある」と感じたときに、それが賭けであるとは思えない。すでにサイコロは振られていて、緊張感を通過し、何らかの目が出ている。というのも、夢のなかで、場所(カタルーニャ地方)ともの(ひし形)は自明であり、その自明さのなかで、あらためて受動と能動が行われるからだ。
 だとしたら、むしろ眠りが……、夢のなかにあることそのものが……、世界のなかに存在しているということが……、もう賭け金を払っていることだと言えるだろう。

(追々記)
 大きさがわからなくなるときには、大きさを測定するための基準scaleが失われているということも考えられる。
 その基準とは、身体ではないだろうか。
 いまのところ知られている、宇宙の階層構造はプランク長さ[10^-34cm]からグレートウォール[10^28cm]までだが、それらを膨大なものだとか計り知れないと感じるのは、人間の身体が10^2cmのサイズにほとんど限定されているからではないだろうか。
 私たちは厳密に数字だけでどれほど大きさを感じることができるだろう?


(追記 2008.05.28)
 パブロ・カザルスはカタルーニャ生まれ。
by warabannshi | 2008-03-13 08:47 | 夢日記 | Comments(0)
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