2008.7.1(tue) 19:12
電気通信大学610教室 塩谷さん、伊藤さん、太田 「ラカンの場合はエディプスの構造がうまく成功しすぎちゃったから、そこにこだわってしまったんだけれど、『セミネール』を読んでいると、一種の科学的手法としてエディプス複合を顕在させてしまったのはまずかったのではないかと思います。もっと一般的な構造論として考えた方がいいんじゃないかと。 《われわれ》が、というときの《われわれ》の揺れ幅の大きさを、ラカンはすごく信じているはずなんです。だから『精神分析の倫理』の「われわれのプログラム」での《われわれ》の意味はラカンの場合は非常に重いんですよ。つまり、「それがあったところに、われわれは生じなければならない(Wo Es war, Soll Ich werden)」というフロイトの命法をラカンが引用するときに、そのエスとは、フロイトの第二局所論におけるエスだけでとっているわけではないということです。そうではなくて、自分がやっていることすべてが構造的***(聞取不能)であるという、その限界の向こうにおいて、《われわれ》に初めてなるのだと。それは、クロソウスキーが『ニーチェと悪循環』で言っている「われわれの未来」と重なる部分であり、逆に言うと、[現在において]《何かを扱う私》や《理性》という統制のレベルを、ラカンもクロソウスキーも信じていないということでもあります。 その統制のレベルを信じていたのは、アルチュセールです。 サイエンス、ではなく、人間のためのサイエンス。ラカン、クロソウスキーは前者であり、アルチュセールは後者です。 彼が晩年にラテンアメリカの方に目を向けたのは「人間のため」という道徳心があったからだと思います。南米はマルクス主義を生きている、という。(笑)」 「マルクス主義って言っても、みんな聖書で噛み砕かれているんですけれどね(笑)」 「人間のため、というのは、人間性のため、という意味ですか?」 「いや、アルチュセールが問題にしているのは、「人間性のため」というレベルではなく、もっと生々しい、「人間のため」というレベルです。後追いで人間性を考えるなんて、そんなことをやってたら生存条件が厳しいところでは、ブルジョワ階級、あるいは貴族階級以外は生きていけないじゃない。 そういう条件を、ラカンやクロソウスキーは想定していないから、だからこの二人は実験室でできること[人間のためではないサイエンス]の極限までいこうとしているわけですよ。たぶん二人とも食うに困らない金持ちの家系だろうから。(笑)」 ※[ ]内 筆記者 (註釈メモ 08.07.12) ルイ・アルチュセール(Louis Althusser, 1918年10月16日 -1990年10月23日)は、フランスの構造主義的マルクス主義哲学者。社会の一元的な規定原理としての歴史主義を批判する。 ちなみに63年のIPAから破門されたラカンにセミネールの場所を貸したのは、アルチュセール。 精神分析の倫理 上 ジャック・ラカン / 2002年 / 岩波書店 ISBN : 4000236296 1960年に行われたジャック・ラカンの火曜ゼミ(セミネール)。仏語版では第7巻に対応している。「われわれのプログラム」は上巻・第1章に収録されている。
by warabannshi
| 2008-07-08 09:39
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