かろうじて蟹歩きができるくらいの、断崖絶壁を、奥へ奥へと進んでいく。
片側には壁、もう片側にはなにもなかった場合、せまいスペースを、蟹歩きで移動するのには、背中を壁にあずけたほうが、やや安心な気がする。重心が背中側にうつったときに、そのままパタンと倒れて落下してしまうことをふせげる。けれど、もしも落下したとき、急速に近づいてくる地面を見ることになるだろう。
そして、自分は胸側を壁にぴったりつけて、蟹歩きをしている。
手がかりになるのは、絶壁の一面に据えつけられている本棚。
本や雑誌が、とくにまとまりもなくランダムに並べられている。
『ボブ・マーレィ写真集』のとなりに、『現代思想』のバックナンバーがあったりとか。
バランスを失わないように、本棚の棚の部分を両手で掴みながら、進んでいく。
進んだ先になにがあるのかは知らない。
温泉郷だったような気がしないでもないけれど、そういう気がするのは別の夢で温泉郷から帰ってきたシーンがごちゃまぜになっているからかもしれない。
(ガス街灯のある十字路で父と母を待つが、二人とも温泉で溶けてしまった……。)
こういう場合にいまやっているロッククライミングもどきは、温泉郷に、溶けた父と母を捜す「黄泉巡りの旅」となるのだろうか?
本棚の棚を掴みながら、ひたすら絶壁を進む。
大型本が入っている棚は、掴み所がなくてあせる。誤って本を掴んでしまったら、そして、そこに体重をあずけたら、その本もろとも落下してしまうだろう。
だから、大型本を注意深く取り出し、絶壁の下に放り投げる。
そして、棚を掴んで、前進する。
ふと、棚に目をやると、日本の民話集が本棚にぎっしりと詰め込まれている。
(いったい自分はどこを掴んでいるんだ?!)
そう思うと、両手はなにも掴んでいない。
驚きのあまり、重心は背中側にうつり、自分は絶壁から落下する。