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003 『経文スパイラル』
 ――すべてを知るあなたに、慎んで申しあげます。
 犬、と書かれた「犬」を見ることは、すべての人々にできます。
 しかし、「犬」を見たすべての人々がめざすその「犬」は、異なるものであります。
 すべてを知りうるあなたに、慎んで申しあげます。
 ほんとうの「犬」はどういうものなのでしょう。
 正しい、まことの「犬」は宇宙に存在するのでしょうか。


 お聞きなさい。
 犬、と書かれた「犬」は実体をもたないのです。
「犬」であるものは「犬」ではなく、「犬」でないものは「犬」なのです。
 知覚された犬も、「犬」なのです。
 表象された犬も、「犬」なのです。
 志向された犬も、「犬」なのです。
 知識としての犬も、「犬」なのです。
「いぬ」「イヌ」「戌」「INU」も、「犬」なのです。
 しかし、それら、すべてが「犬」ではないのです。
 お聞きなさい。
「犬」は生じることもなく、滅することもありません。
「犬」は汚れることもなく、浄められることもありません。
 そして、それは「犬」ではないのです。

 お聞きなさい。
 私たちは、広大な宇宙のなかに存在します。
 宇宙は「犬」に満ちています。
「犬」は自由に動き回り、形を変えます。
「犬」は形を変え、自由に動き回ります。
 形あるものを私たちはとらえることができます。しかし、形あるものはいつもいつも変化するものであり、変化しないものはありません。変化するからこそ、形をつくることができるのです。変化するからこそ、形であることができるのです。つまり、「犬」とは形なのです。でも、「犬」は形ではないのです。

 お聞きなさい。
 あなたも宇宙の中で「犬」としてここにいます。
 あなたも宇宙の中のほかの「犬」とひとつづきです。
 宇宙も「犬」です。
 あなたと宇宙は一つです。
 あなたと宇宙は一つづきの「犬」なのです。
「犬」なのですから、生じることもなく、滅することもありません。
 汚れることもなく、浄められることもありません。
 だから、お聞きなさい。
「犬」には、形もなく、感覚もなく、意志もなく、知識もありません。
「犬」には、眼もなく、耳もなく、鼻もなく、舌もなく、毛もなく、心もなく、鳴き声もなく、香りもなく、さわるものもなく、さわられるものもなく、心の対象もありません。
「犬」には、すべてがないのです。
 そのため「犬」となった人は、迷いがあっても、迷いがないときと同じ心なのです。
 そのため「犬」となった人は、老いもなく、死もなく、老いも死もなくなることもなくなるのです。
 悲しみも、悲しみの原因も、悲しみをおさえることもなく、知ることも忘れることも、得ることも失うこともなく、それゆえにほんとうの「犬」を求めて心を覆うこともなくなります。心を覆うこともなくなるので、恐れもなく、恐れもなくなるので、永遠の楽園に入っていけるのです。
 これを聞くものよ。これを聞くものよ。
 幸いあれ。
「犬」よ。「犬」よ。
 幸いあれ。
 わんわん。
by warabannshi | 2005-08-11 22:57 | Comments(2)
002 『雨ふりトルクス』
 たどりついたら~いつも雨降り~♪ という軽快な歌を口ずさみながら黄昏の帰り道。歌はいいねえ。歌ってるあいだは何も考えなくてすむ。猿太郎のこととか、猿太郎のこととか、あと、猿太郎のこととか。
 歌ってるあいだは何も考えなくてすむ。これこそ、歌の功徳だ。おかげで外見だけはすこぶる陽気。しかしながら心は修羅。
 なぜ? なぜだって?!
 決まってるじゃないか! あの悪党・猿太郎のせいだ。ぼくが倉庫で日常業務、即ち、故障等の事情により担ぎこまれたバイクのオイル交換にいそしんでいたら、猿太郎のボケがドレンボルトが外れないと騒ぎ出した。仕事上の先輩でもある猿太郎の顔を立てるため「最近は機械でしめるせいでなかなか外れないんですよね~」と言ったら、「われがそがぁなことでどうする。わしが見ちゃるから、やってみい」ときた。ここで猿太郎の顎をレンチで殴って廃オイルの海に沈めてしまえばよかったのだが、ぼくは大人しくボルトを外しにかかった。
 ちっとも外れない。
 あんまり力を入れて強引にやるとネジをなめてしまう。
 でも、硬い。ありえないくらいに硬い。
 悪戦苦闘のぼくを見下ろす猿太郎。手は出さないが、口は出す。本当は、広島弁がキツすぎて、言ってることワケワカンナイ。だけど、神経は苛立ってくる。僕が犬だからってなめやがってくそう。
 ついに我慢の限界に達したぼくは、ねじ回しを足で蹴り飛ばした。
 やっと外れた。
 だが、力余ってそのまま前につんのめり、トルクス、すなわちヘックスローブ型締付け駆動部ねじの箱をひっくり返した。ねじが辺り一面にちらばり、あっという間に廃オイルまみれになる。バカ猿太郎がなにかわめきちらした。でも広島弁がキツすぎて、言ってることワケワカンナイ。結局、ぼくがすべての責任を負い、所長の罵詈雑言と、同輩の失笑をあびて今に至るのである。
 もういやだ。なにも考えたくない。
 いつしか口ずさむ歌も、あーくんは生まれる前に死んだ。という救いがたいものに変わっており、悄然。もういやだ。死にたい。ふと顔をあげると、あ、お地蔵さま。
 小癪なことに、顔が猿太郎にそっくりだ。赤い涎掛けをかけて、知能指数が低そうなにたにた笑いを浮かべている。これでなにがしかの功徳があるのだろうか。いや、ない。こんな腐れ地蔵より、歌の方がよっぽど上等だ。怒りが臨界をこえたぼくは猿地蔵を蹴り飛ばした。

 とたんに頭上で雷鳴。
 見上げた曇天から、降りそそいできた、
 千億のトルクス。
by warabannshi | 2005-08-08 22:36 | Comments(0)
001 『マイノリティーサーカス』
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
おんぼろサーカスのテントの中で、空中ブランコでたゆたっている。
頭倒さに手を垂れて、たった一人でたゆたっている。
そうすると、草深い野のどこからか、こんな擬音語が、響いてくる。
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
……え、響いてこない?
でも、ぼくの耳には響いてる。
ぼくの耳には響いてる。
あなたに響かないはずがない。
響かないはずがないよ!
さあ、両耳を澄ますんだ。
さあ、目を閉じて。
さあ、ことばを捨てて。
……って言ってみたって仕方ないよね。
あなた、空中ブランコ、のったことないんでしょ?
やっぱり!
知ってる、知ってるよ!
のらないとわからないよね。
でも、のればきっとわかるんだよ!
いつか世界のみんなを空中ブランコにのせること。
これがぼくの夢なんだ。
ああ、犬だよ。ぼくは、犬さ。
おまけにみんなから変な名前をつけられている。
でも、犬が夢見ちゃ悪いかい?
変な名前の犬が夢見ちゃ悪いかい?
否!
……ああ、ごめん。
ごめんなさい。また、またやっちゃった。
空中ブランコに長く長く揺られていると独り言が止まらなくなるんだ。
止めようと思っても、止まらなくなるんだ。
ぼく、正直、もう空中ブランコになんかのりたくないんだよ。
だって、ほらほら、これがぼくの指だ。
突き指だらけで関節もごつごつ。
爪も、何枚も、はがれました。
硬い床に落ちたぼくの影は、あまりに淡い。
…………。
…………。はあ。
ぼくはいったい誰に話しているんだろう?
ぼくはいったい誰と話しているんだろう?
(ぼくたちに、さ)
誰かの声にぼくが顔をあげると、サーカス小屋は霧のようにかき消えた。
しらじらとした月の光が照らしだしたのは、清浄の地。
世界人類すべてが空中ブランコにのった、すばらしい世界。
皆、静かに笑いながら空中ブランコでたゆたっている。
こっちをみて、手真似につれて、唇を動かしている。
古い影絵でも見ているようだ。
音はちっともしないし、何を云ってるのかわからない。
そっちへ行ってもいいの?
え、飛べばいいの?
でも、あなたたちの空中ブランコまでは、あんまり遠い。
ほんとうに手を伸ばしてくれる?
ほんとうに手を取ってくれる?
ぼくは犬だけど、犬でもキャッチしてくれるの?
まじ? ほんとに?
じゃあ、飛ぶよ?
飛んでいいんだね?
ありがとう、みんな。
ありがとう。ありがとう。
あふれだす歓喜の涙。
気がついたら目の前に信じられない速度で、
床が、
by warabannshi | 2005-08-03 17:18 | Comments(2)



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