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第492夜「布屋敷の水泥棒」
 布屋敷のある部屋の窓枠には、クロオオアリほどの大きさの見張りが14人ならんで、窓ガラスの隙間から吹き込んでくる風の量を一定に調節している。その窓から外に出ようとした私は、見張りの一人に厳しく誰何された。新鮮な空気を吸い、クリーム色に変化しつつある朝焼けの空を見ようとしただけで、他意はないことを、このささやかな見張り手にわかってもらおうとする。しかし、いつのまにか、彼らは吹き消されたようにいなくなっている。
(私を金持ちのぼんぼんか何かと誤解して、気を利かせてくれたのだろうか?)
 14人の見張りが守ってきた隙間を、ちょっとだけ広げてみる。
 とくに何も起こらないことを確かめて、窓枠の左下に設えられていた寝台に、窓枠のほうを頭にして寝転がる。
 すると、400が沸騰したように因数分解され、私を急に不安にさせる。起き上がろうとするも、金縛りにあったようで、肩から先の左腕しか動かない。
(水泥棒だ!)
 私の直観は当たる。私の腹の上、30センチあたりに、ひじきのような黒いノイズを含んだ水球がぽつんと生まれ、じわじわと膨らんでいく。それは見まごう事なきこの体の水分である。ひじきのような黒い線が福笑いのように寄り集まって中途半端な面を形成し、私の顔を眺める。私は水泥棒に復讐を誓う。
(木の葉のなかにある水分を奪うように、水底の木の葉をすべてひきあげてやろう)
by warabannshi | 2011-06-26 05:07 | 夢日記 | Comments(0)
第491夜「弟の彼女」
定時に閉まった図書館からの帰り道、「(上の句、忘却)ぼんやり遠き足指の十」と三十一文字を練りながら歩いていると、名前の知らない弟の彼女が玄関の前で所在なさげにしている。
「弟Yは留守ですよ」
「はい、だから待たせてもらっています」
「いつ帰るかわかりませんし、どうぞお入りください。ミント・ティーがあります」
 そんなままごとのような会話を交わして、リビングで休んでもらう。
「Yさんは喧嘩をさばくのが上手で…」という話も聞く。私の知らない弟Yの姿を、弟Yが知らない状況で知るのは愉快である。
 メールが届く。失礼、と画面を見ると「二人目が産まれました」という文面。添付されているのは新生児を抱く笑顔の友人Nの写真である。
 二児の父を言祝ぐメールを書きたいので…、と弟の彼女に言おうと顔を上げると、彼女はそこにいず、巨大なホオジロザメがとぐろを巻くようにして、満腹した顔で床に眠っている。
by warabannshi | 2011-06-20 09:02 | 夢日記 | Comments(0)
第490夜「脱毛」
 正月まで全身の毛を剃ってはならないと主治医に言われる。髭もですか? と聴くと、彼女はしばらく考え込んで、髭は問題ないです、と答えた。
「良かった。怪人・マリモ男みたいになるところでした」
 私は安堵する。
「その代わり、一日に卵を二つ、食べなければですよ。髭を剃ることで失われる力を補うために」
「もしかして、禁酒もしなければ、ですか?」
「いいえ。あなたはサムソンではないのだから」
 私は中華街で、さっそく今日のぶんの卵を食べることにする。
 ゆで卵を二つ、と注文する。私は、胡散臭そうなコックが厨房で汚れた洗い桶から殻をむかれたゆで卵が取り出すところを目撃する。凝固した卵白は黒ずんでいて、垢じみてすらいるようである。
 私はコックを難詰することに決める。これはピータンの一種です、と弁明されても一歩も退かない覚悟をもって。さっそく脱毛していないことの効果が出てきたようで、頼もしく思う。
by warabannshi | 2011-06-14 10:26 | 夢日記 | Comments(0)
【告知】6/12(日)「第十二回文学フリマ」の詳細【イ-02】
 明日の日曜日、開催される「第十二回文学フリマ」に笑半紙はブースを出します。
日程 : 2011/6/12(日)11:00開場~17:00終了
場所 : 大田区産業プラザPiO 大展示ホール・小展示ホール
アクセス : 京浜急行本線「京急蒲田駅」徒歩3分

 当ブログの出店ブースはイ-02です。

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 販売するものは、以下の通りとなります。

《 新 刊 情 報 》

■文庫本『続笑半紙』80頁 400円
 前作『笑半紙』が〈肉料理〉だとしたら、本作『続笑半紙』は〈ツナサラダ〉くらいの濃さです。前作が『インランド・エンパイア』だとしたら、本作は、『水曜どうでしょう』くらいの緩やかさでお送りします。『続笑半紙』では、実在する物や場所の名前が多く現れます。記録のなかに実在する何かの名前が多いほど、その夢は、起きているときの記憶の、単なる順列組み合わせのように思えます。
 しかし、「私たちの現実こそが、消えた夢の記憶の順列組み合わせである」とはいえないでしょうか? 夢の中で、誰もが感動する素晴らしいメロディを作曲したのに、目覚めたあと、自分でもう一度そのメロディを聴くことができないことを残念に思ったことはありませんか。夢から覚めても忘れないように、五回も十回もそのメロディを口ずさみ、手帳に採譜したにもかかわらず、夢から覚めると消え去ってしまう記憶と記録。私たちが生きているのは夢のなかのメロディではないでしょうか。――しかし、私たちにそう思わせることこそが、じつは夢の巧妙な戦略なのかもしれません。

《 既 刊 》

■文庫本『笑半紙』76頁 400円 (2010年5月4日)
 夢日記のテキスト量は、ブログ掲載時のかるく三割り増しになっております。複数のテキストを一つに編集し、原型をとどめないほど念入りに推敲しました。「誰にとっても新しく、そして、誰にとっても懐かしい」。当サークルの看板商品。

■文庫本『上の空』 300円 (2011年12月5日)
 夢の記憶と現実の記憶の境目がなかなかつかない方のために、晩秋から初冬までの季節までの「上の空」を蒐集しました。上の空になっているとき、人は決して集中していないわけではありません。むしろある事柄に過剰に集中しているのです。

■B5判『其処に意味をお与えにならなかったので』20頁 200円 (2010年5月4日)
 ネット上で小説を書き始めてから、2010年で10年目になりまして、そのあいだに随分文体も変わったのですが、ちょうど当ブログをはじめた2005年前後に書いた作品を選び、編集しました。浅葱ヒタキさんによる装丁とデザインで、愛嬌ある仕様になっています。

■折りたたみB5判チラシ「クラフト紙による笑半紙」太田和彦 無料

第十二回文フリを終えて
by warabannshi | 2011-06-11 02:14 | その他 | Comments(1)
第489夜「宇宙旅行」
 念願がかなって、とうとう宇宙旅行に行くことができる。社費が出るということは、小学生向け科学漫画の企画で行くことになったに違いないのだが、気分がうきうきしているのでまったくどうでも良い。搭乗する「宇宙船」は2人乗りで、室内には、社員の人が持たせてくれた「宇宙旅行に必要な装備 30年前といまを比べてみよう!」みたいなポスターがボードに貼りつけられている。
 仰向けに寝そべったまま、発射の手続きがとられていくのを聞く。私は何もできることがないので、よきに計らえ、という気分。管制官たちのどんなミスにも気がつくことができない心細さは、飛行機への搭乗と同じだと思う。仰向けになって眺める天井は透き通っていて、これからそこに行く青空が遠く、水面のように広がっている。
 秒読みが始まる。
 10カウントを聞かせてくれるのはサービスなのだろうか、と失禁しそうな緊張感のなかで思う。
 「大気圏外に初めて行った地球生まれの生物であるところのあのベルカは、この10カウントを聴いただろうか?」と、一段落ついたらtwitterでつぶやくための台詞も練っておく。
 体中の皮膚が押し剥がされるようなGがかかる。眼球が圧迫されて、視界がゆがむ。目を瞑ったら楽になるかと思ったけれど、とくに変わらないので、自由落下よりも速く視野を過ぎ去っていく雲の断片を見るともなく見る。
 ある層を抜けると、奇妙な、まるでリサジュー曲線のようなかたちの雲がそこかしこに浮いている空間に出る。
「宇宙船がつくる雲だよ。大気の流れが、ここはほとんどないから、こうやって雲は何十年も残り続けるんだ」
 いつの間にか隣にいる知らない友人が解説してくれる。ポリゴンの骨格だけが残っているような雲は、宇宙船がついた溜息のようである。雲は何らかの規則性のもとに整然と並んでいるらしく、見ていて荘厳な気持ちになる。
by warabannshi | 2011-06-09 08:44 | 夢日記 | Comments(0)
第488夜「免職」
 富士見が丘にある塾の教室で生徒を待っているが、定刻を過ぎても一人も来ない。大きすぎるベランダの窓の外の景色はスモッグで紫がかっていて、物悲しい。この建物には、いや、それどころかこの世界のあらゆる校庭から、小学生が消えてしまったかのようだ。
 ずしずしという無遠慮な足音が階下から廊下へ続き、そして、私が教卓で控えている教室へと近づいてくる。現れたのは、身の丈三メートルはあろうかという、髭の白色人種である。
 まるまると突き出た太鼓腹を揺らして、彼は私の前に立つ。
「太田というのは君かね?」流暢な日本語である。「君の英語の授業は、これから私が代行することになった。短い付き合いにだろうが、よろしく。君は親しい人からオタカズと呼ばれているようだが、私は、スズミ、と呼ばせてもらうよ。スーツを来たネズミのようだからね。そうだ、忘れないように書いておこう」
 彼はそう言うと、シャープペンシルを取り出す。私のツイードのスーツの両肩に「スズミ」と書こうとするが、もちろん書けるわけがない。そして、この一方的な侮辱に甘んじている私でもない。私は無礼な男を睨みつける。だいたい、この男から見れば、たいていの日本人は「スーツを来たネズミ」なのではないか?
 彼をぎゃふんと言わせる腹案を練っていると、満足したように彼は言う。
「さあ、講師控え室に行こう。そして、代行を承認した旨を書面に書くんだ」
 私はむしろ、彼の傍若無人を告発するために、講師控え室に行くことにする。
 出勤簿に押すための「太田和彦」という判子をしまおうとすると、彼は愉快そうに笑う。
「そうか、新しい判子が支給されるまでの辛抱だ、スズミ」
 なぜか私は急に不安になる。カバンのなかで、自転車の鍵につけている鈴がちりちりと鳴る。その音がまた彼に私に付けこむ隙を与えるようで、私はいそいで鍵を握りしめる。彼のあとをついて階下へと向かう。
 階段には、キルケゴールが腰掛けている。彼もまた免職されたのだろうか。憔悴しているようだが、青いバラの花束のつぼみを舐めて、ほころばせようとしている。
by warabannshi | 2011-06-02 09:08 | 夢日記 | Comments(0)



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