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第511夜「『夏のおわりのト短調』」
 大島弓子『夏のおわりのト短調』と同じ年代。ある同人誌の表紙に菩薩像をかがけることになったのだが、菩薩を構成するものすごく細かい線を、ガリ版に鉄筆で何百本も何千本も描いていかなければならない。もういい加減、別のイラストにしたい。しかし、この菩薩像を描いてくれたのはH教授なので、無碍にはできない。
 真面目に机に向かっていると、自分の着ている高校の学ランの匂いが鼻につく。土埃と脂の混じったような匂いである。なぜこの暑い時分に、真っ黒い制服なんて着ているのかわからない。けれど、この匂いを嗅ぐと、何となく気分がよい。鉄筆で蝋を引いた紙に無数の線をこりこりと描きながら、線の事を忘れるほどにうっとりとなる。左の肩口の生地を鼻にあてがって嗅いでみる。すると鼻の奥が詰まったような感じになった。しかし、愉快である。木造りの図書室には私のほかに誰もいない。木綿のカーテン越しに白い陽光が斜めに射している。私は立ち上がり、恨みをはらすように、制服の匂いを嗅ぎながら、ぐるぐると歩く。
by warabannshi | 2011-08-31 05:36 | 夢日記 | Comments(0)
第510夜「ロンドン大火」
 私は、私の名前の知らない妹になっており、ロンドン市街の、漆喰のアパートに住んでいる兄(太田和彦)に署名活動の用紙を預けに行く。
「わかった。でも、あんまり有名な人の署名は期待しないでね」
 私は礼を言って、彼の部屋を出る。そして、長い長い階段を降りようとしたとき、初めて、その階段が透明であることに気付く。踏むと、ぎいぎいと木板のきしむ音がするのでたしかに何かはあるのだろうが、宙を浮いているようにしか見えない。どっと汗が出る。
「その階段は、ロンドン大火のときに焼け落ちた階段の幽霊を、そのまま使っているんだよ」
 左のわきの下のあたりから兄の声が聴こえる。
by warabannshi | 2011-08-26 19:01 | 夢日記 | Comments(0)
第509夜「再現」
 真昼間のくねくねした坂道を、古ぼけた幼稚園バスに揺られて上っている。乗客は、私と、小学校時代の友人Mの二人。Mは銀色のスーツを着て、気さくに話しかけてくるが、その気さくさが小学校の頃と同質のものなのか、それとも商売柄、身についたものなのか、わからない、……と勝手に勘ぐってしまうのが悲しい。
 私たちは、ちょっと離れた、別々の二人用座席に座っている。幼児用なので、足を折りたたまなければならず、ほとんど体育すわりである。外は静かで、誰も乗っていないブランコが揺れている。このバスがどこに向かっているのか知らない。随分長いこと、この児童公園の横を通り過ぎているようである。
「Mはアニメ見るほう?」
「いま? 見ないなあ」
「『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』って知ってる?」
「聞いたことない。何で?」
「あんなふうに上手くいくわけがないんだよ、って」
 バスはいつの間にか大きな駅に着いている。ここが終点らしい。レンガ敷きの駅前広場では青空古本市が行われていて、背丈ほどの本棚がいくつもランダムに並んでいる。Mの姿がないので、探そうとする。ハードカバーに入ったディドロの全集を買ったらしい中年の男が、函の中身が違っていた、と、店主の老人に文句をつけている。
 駅のなかに入ると、人型ロボットの展示が行われている。それと握手するように白衣の係員から求められたので、差し出された手を握ると、驚くほど人間の手の感触とそっくりである。暗闇なら、わからないだろう。初対面の相手と握手したときのぎこちない動き方も再現できていて、すばらしい。そう思って、よく見ると、私と握手しているのは、人の手とは似ても似つかない、イソギンチャクがイソギンチャクに寄生しているような繊毛に覆われたものである。思わず手を引っ込めると、しゅ、とその触手も手首のあたりに納まってしまう。
「この手には、盗撮者の魂が実装されているんです」
 盗撮者? 痴漢じゃなくて?
 そう思ったが、あまりの発想の斬新さに、私は年甲斐もなく、その場で何度もジャンプして手を叩いてしまう。どうやら、開発者のハットリ氏は、この発想をダイアローグ・イン・ザ・ダークで得たらしい。
by warabannshi | 2011-08-17 12:20 | 夢日記 | Comments(0)
第508夜「甘露守り」
 1920年代に日本で撮られたモノクロ映画、『甘露守り』を見ている。長屋に住んでいる大酒飲みの博打打ちの男が、ふとしたきっかけで手に入れた3寸ほどの木の板は、持っていると酒の味を豊かに変え、酒毒の半分を引き受ける不思議な力を持っていた。男はその小さな木端を「甘露守り」と名づけて、肌身離さず持つ。ある日、大きな賭場が立ち、男もそれに参加する。まるで何かに魅入られたように負けを重ねる男。とうとう有り金をあらかた失ってしまうが、胴元たちは「酒好きなお前は、この酒樽を持ち上げられたら、負けた分は差っぴいてやる」と、巨大な杉の樽を、縄で男の胴体、額に結びつける。男は立ち上がろうとするが、びくともしない。ふと、男の脳裏によぎったのは、甘露守りのことであった。男は首から下げていた守り袋のなかにしまっておいた甘露守りを取り出し、「これでもう一席、賭けさせてくれ」と頼む。しかし、当然、それは薄汚い木端にしか見えないので、ふざけるな、と胴元に取り上げられたあげく、泥道に叩きつけられ、踏みにじられる。男は悲嘆の絶叫をあげ、縄を引きちぎり、胴元を殴り倒す。周りが男を止めにかかったが、男は怪力をふるって、他の5、6人を撲殺する。逃げた男の行方は杳として知れない。そして、甘露守りは、いまもまだ古い路地のどこかに転がっている。
by warabannshi | 2011-08-14 08:56 | 夢日記 | Comments(0)
第507夜「遺伝子メーター」
 自室のなかでひっきりなしに振動音が聞こえる。エアコンやノートPCなどをチェックするが、それらが原因ではない。もちろん携帯電話ではない。
 ベッドに腰かけると、立ち机にしているカラーボックスの隙間に何かが挟まっているのに気付く。体温計ほどの大きさで、毒々しい飴のような赤と白の模様。間違いない。遺伝子メーターである。それが私の部屋の立ち机の下に挟まっており、おまけに震えている。
 おそるおそる近づいて摘みあげようとすると、ぶちゅ、と樹液のような中身をラグの上に漏らして、メーターは冷えていく。次の瞬間、私は高校生に戻っている。
by warabannshi | 2011-08-11 17:59 | 夢日記 | Comments(0)
第506夜「中二病者の会」
 京王線新宿駅の一番線のレールの、さらに隅、電車が入ってこない場所には、一台の白いライトバンと、数台の自転車が乗り付けてある。それが「中二病者の会」の会合場所である。朝、私は出社するのをやめて、そちらの会合場所に行く。
 すでに白いバンの運転席には、名前の知らない先客がいて、明太子をパンに塗って食べながら、同志のUST(秘密放送)を聞いている。
「ポスト・フェストゥムをいかに生きるかが、むしろ課題なのです」
 六〇代にほど近いであろう、禿頭のおじさんが、笑っちゃうようなしかつめらしさで、壇上で演説している。カメラはその姿を斜め右下から撮影している。この歳まで中二病を維持しつづけるのは、相当のことだと感心する。膝の上においたノートPCでUSTを見ていた運転手が、それを私に渡す。
「どっか行っちゃいましょうか」
「いいですね、私、横浜に行きたいです」
 私たちを乗せたバンは、停めてある自転車を蹴散らし、地下鉄のレールの上をごとごとと走り出す。
 以下は、このバンのなかに堆積していた「中二病者の会」の、ログの断片。

「江戸川乱歩の『人間椅子』は、わたしたちに良い素材を与えてくれる。快楽の機械的供給は、そう経たないうちに、苦痛に代わる――肉体的苦痛に」
「竜宮城」
「体のなかにある神経系が、蜘蛛の巣のようにはっきりと青白く見えるようだった」
「欲望を痙攣と置き換えなさい。ブルトンが「美とは痙攣的なものだ」La beauté sera convulsiveと言ったように。そして、痙攣が訪れるまで我慢しなさい。訪れたら、その苦痛に耐えなさい」
「痙攣は貯まっていく」
「電波というより電気」
「手の指がのびていく」
「景色を見るようにする」
「ゴッホの糸杉になる」
by warabannshi | 2011-08-08 10:02 | 夢日記 | Comments(0)
第505夜「介抱」
 夜、琵琶湖の南を二両編成の私鉄に乗って、東に向かっている。明日までに大学に着かないと解雇されるので、急いで欲しいが、この路線には当たり前のように各駅停車しか存在しない。
 真っ暗な無人のプラットフォームに律儀に止まる無為に、絶叫したくなる。
「なんか熱っぽい…」
 ボックス席の対面に座っている、名前を知らない私の娘がぼんやりと呟く。額に手を当てるとたしかに熱い。
 娘を背負い、次の駅で降りる。六歳なのに、熱で気化しつつあるのかと思うほどに軽い。駅の窓口に行き、近くに泊まれるところはないかと聞く。
「お一人様、一万三千円の宿ならご案内できますが」
 高い。が、背に腹は変えられない。地図をもらって、車道しかない国道の路肩を歩く。琵琶湖がのっぺりと右手に見える。娘の息が首筋に熱い。
「セブンイレブンって、閉まるんだね…」
 確かに、コンビニが一件、潰れている。それを彼女の末期の言葉にしないように、足を早める。
by warabannshi | 2011-08-05 19:12 | 夢日記 | Comments(0)
第504夜「世紀末鯰」+
 世紀末鯰(Le poisson-chat de la fin du siècle)についての文献を読んでいる。この秘密結社には、エリック・サティも入会していたことを知り、断然興味がわく。資料には、デカルトによる四十八手の解説などが載っている。これは『方法序説』の草稿であるらしい。さすがにインチキだと思う。
by warabannshi | 2011-08-05 06:14 | 夢日記 | Comments(0)
第503夜「布屋敷の限定」
 布屋敷の廊下を歩いている。裸足が踏んでいるのはどうやら乱雑に散らかった本や雑誌の類である。あまりに薄暗いために、たしかに前に向かって歩いていることを確認するために、左手の中指を壁の布に這わせて進む。左手をべったりと布につけないのは、布に依存しないための用心であり、這わせているのが左手なのは、万が一のときのために利き手を守るためである。
 おっかなびっくり歩いていくと、左に洞のような、慎ましやかな直方体の空間がある。
 そこには、ダイニング・テーブルがあり、折りたたまれた新聞と、崩れかかった葡萄のゼリーが載っている。
 葡萄のゼリー? いや、違う。これは凝固した経血ではないだろうか?
 私がその、深紅というには黒々としているゲル上の物体に顔を近づけると、どこからか声とヴィジョンが押し寄せてくる。

【声】
 「限定、ただし異常な細密さをもって」、「思考の毒は白い」、 「わざわざ手をとめなければならない、というのが、写生分の最大の欠点である。つまり、口は空いているので、しゃべりつづけることはできるのだが、書き言葉から始めるのと、しゃべり言葉から始めるのとでは、必然的に構文や文法に違いが生じる」

【ヴィジョン】
 アイルランドの草原の修道院で、金髪の女性がイニシエーションを得る。女性はその修道院に、自動車が霧でやられて動けなくなったために仕方なくはいったのだが、コンクリート打ちはなしのプール(というか、泉)を往復しつづける全裸の白人男性が、彼女の案内役を買って出たのである。
by warabannshi | 2011-08-03 04:04 | 夢日記 | Comments(0)
第502夜「積算症候群」+
 思い浮かべた数字がすべて足されていってしまうという積算症候群にかかる。つとめて、何も考えないようにするが、そうしようとすればするほど5桁や7桁の数字が思い浮かべられて、それらが足されていってしまう。無機的な数字の羅列ならどうなのだろう、あるいはパスワードとか? と思い、15桁くらいの出鱈目な数字を思い浮かべるが、私が調子に乗っているのを見越したせいか、それは足されない。
「数字の恐怖はここにあります」
 スタンド・バー、というか、システムキッチンのようなところで麦茶を飲んでいると、隣に立つ制服警官が言う。彼はブラッドオレンジジュースで何かを作ろうとしている。
「やがては、数字が風景に見えるようになるんでしょうか?」
 それとも、減数分裂を忘れた有性生殖生物の細胞のように、自らを数字でいっぱいにして滅ぶのでしょうか?
by warabannshi | 2011-08-01 07:08 | 夢日記 | Comments(0)



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