<   2012年 01月 ( 4 )   > この月の画像一覧
第544夜「正気」
 日蓮宗なのだということはわかる。私もそうだからだ。しかし、もともと布団屋だったと思しき、その平屋建ての家、というか小屋は異様で、壁面に隙間なくびっしりと、「日蓮を讃えよう」、「ただ一人を信じよう」などの文句が書かれた紙が貼り付けられている。それらの文句は、淋漓たる墨痕で大書されているのではなく、ワープロの明朝体でプリントアウトされたものをA3版に拡大コピーしたもので、6行が1セットになっている。それが目張りするように小屋を覆っている。文字の周囲の凸凹がノイジーであり、万年筆を握った右手を模した「手帳の高橋」のようなロゴが、ユーモアなのか、1枚に1つ、必ず記されている。さらに、出世術の覚書のような説諭(「信念こそが路を切り開く」、「毎朝四時起床、やるべきことを書きだそう」)も混ざっており、目を凝らすだけこちらの正気が削り取られていくような仕上がりになっている。
「太田さん、こっちです」
 名前の知らない後輩が呼んでくれる。今日は、名前の知らない、性別もどちらかわからない友人の、結婚式に列席するのである。
「これ、何年前からあるの? 一年や二年でここまで年季の入ったものにはならないと思うんだけど」
 私が元・布団屋を指し示そうとすると、後輩は影絵のように素早く、私を会場のビルまで案内する。商店街のアーケードに無理やり増築したその白亜の6階建てほどのビルは、無思慮という概念を具現したようで、なんとなく耳の底が冷える。
 会場は、そのビルの屋上である。周囲にこれといって高い建物がないせいで、広々としているが、いかんせん、商店街のアーケードの屋根と、立体交差点、あとは青空しか見えない。
 キッチュな教会型のモニュメントでは、準備が進んでいるようで、私はしばらく景色でも眺めていようとする。と、明らかに気の触れたベンチコートの男性が屋上を徘徊していることに気づく。しゃっくりのように怒鳴り声、というか何かに対する抗議・悲憤を発しているが、それがいったい何に対するどのようなものなのかわからない。あまりに間欠的すぎるのだ。
 この男性が結婚式場に紛れ込んだらコトだ、と思い、私はなんとか誘導して、彼を屋上から引き離そうとする。しかし、男性は手に持った模造紙を取り出し、強風のなか、それを声に出して読み始める。なにかの宣明文らしいが、5字くらいでぶつぶつと切れるので意味がとれない。
 ひときわ強い風で、その男性が両手を広げて持っていた模造紙が吹き飛ばされる。私は誤って、その紙を踏む。どのような内容であれ、心血の注がれたものを足蹴にしたことで怒られるかな、と思い、隣のMさんを見やるが、とくに何の表情も読み取れない。
 その一方で、男の悲憤は絶頂に達したようで、さまざまな呪いの言葉を発しながら、漫画のような筒状ダイナマイトを懐から取り出す。そして、「サン」の一言を残し、それに着火する。
 瓦礫と化した白亜のビルで、列席者と、ビルのオーナーはぼんやりと立ちすくんでいる。そのなかの一人が、ふと思いついたように言う。
「あれ、南町はなんもなかったよな」
「ちょうどいいな、ルミネでもやろ」
「おお、そうと決まったら早速」
 そんなことを言いながらごちゃごちゃと移動していく。
「いや、……しかし無理じゃないかな。鹿児島の一刻者が多いから」
 名前の知らない友人がつぶやく。
「おお、オレは大反対だ」
 名前の知らない、禿頭の、彼自身のものなのか、それとも焼いている鳥の脂か、両方かでてかてかのおっさんも賛意を示す。
「素っPにマーケティングやらせようと思う方があかんねん」
 他の知り合いらしき関西弁の男性も調子を合わせる。素っPの意味を知りたかったが、黙って頷き、アーケードを眺める。
by warabannshi | 2012-01-20 06:29 | 夢日記 | Comments(0)
第543夜「ワン・タイハイ」
 ボルヘスの『幻獣図鑑』にも載っている、墨を飲むのが大好きな黒い毛の猿、ワン・タイハイを求めて、ニュージーランドの森に取材に来ている。取材で撮られた映像は、民法テレビの「世界のビール飲み比べ!」みたいな番組のちょっとした場つなぎに使われる。だが、そんなことは関係ない。私と、同行しているジャグラーのKさんと2人で、ずんずん盛り上がりながら、巨大樹の森を行く。もしワン・タイハイがいたらどうしよう。7ボールを披露してみよう。いや、ワン・タイハイは古樹の枝から逆さまにぶらさがって旅人を迎える“森の賢者”だそうだから、思いつきをしても、気むずかしくさせるだけだ。
「でも、俺、じつは3年くらい前に会ってるんだよ」
「本当に?」
「ワン・タイハイは人の顔を3年間は覚えているらしいから、ちょうどいいかなと思って」
 茶色に変色したシダの葉で覆われた地面を、がさがさと2人で歩いていく。まだらに差し込む変に明るい陽光が、幼樹の重ね葉の陰を、一つ一つで濃くしている。かつて一度も歩道でなかった岩場に、薄い麻布のようなものが散らかっている。ごみのように見えるその生き物の形態は、何への保護色なのだろうか、と思う。
 と、ガラパゴス製のトレッキング・グッズに身を固めた5、6人の白人が、橋のたもとで騒然としている。これは駄目だ。こんなに人がいるところにワン・タイハイはいない…、と引き返そうとしたとき、川のたもとに、巨大な人影がうずくまっているのを視野の隅にとらえる。
 背は普通の人間よりもずっと高く、長く、黒い毛を左右に均等に分けている。岩に腰掛けて、膝から先を川の流れに浸している。肘から先は恐ろしく長く、その腕の先の手のひらだけが奇妙に人間のようで、清流を掬っている。カメラも回せずに、日射病にかかったように唖然としていると、やはり川のなかに入っていた現地人の少女が、輸入されたものらしいタオルで、巨猿の右手の指をぬぐいだす。ワン・タイハイは、おとなしく、されるがままになっている。
by warabannshi | 2012-01-15 09:41 | 夢日記 | Comments(0)
第542夜「来し方」
 どこかのデパートの6階か7階、エスカレーター近くで“お試し”として開放されているマッサージ・チェアにかかりながら、来し方をかえりみている。
(半ズボンを履いていた3歳のときから、世間に儘ならないことは多かった。半ズボンそのものも不快だった。しかし半ズボンの不快さをうまく説明することはできなかった。というより、半ズボンが不快なのか、睡眠不足や疲れが不快なのか、分けることができなかった。半ズボンから遠く離れたいま、まず不快を、睡眠不足か疲れのせいだと仮定することができる。これは良い習慣だ。しかし、だからといって、世間の儘ならなさが解消されたわけではまったくない)
 買い物に行っていた友人Uが、戻ってくる。
「だめだ、良い木材はもう売り切れてしまった」
「それは残念」
 彼は寄せ木細工で鞄を作ることができる。そして、それを自殺を考えている人に贈る。
「パスタ、食べに行こうよ」
「海沿いに行かないとないんじゃないの? ボンゴレには新鮮な海水が必要だから」
by warabannshi | 2012-01-12 14:58 | 夢日記 | Comments(0)
第541夜「雪」
 雪の結晶を形作る氷片のひとつひとつから音を抽出することができるようになる。その音は、雪の結晶が溶ける瞬間に一瞬だけ発せられる。音素の複合体としての雪。
 圧縮されたその音を解析したところ、それが人の声であることを示すに足るいくつかの証拠が見つかる。「雪にメッセージを込めよう!」。各旅行会社はこれをスローガンとして、北国行きのツアーをいくつもいくつも考案する。とりわけ、いままであまり人の声がまざっていないと思われる極地へのツアーは、高価であるが、申し込みが殺到した。
 どこに行くにせよ、やることは変わらない。いまにも雪を降らせそうな曇天に向かって、「込めたいメッセージ」を叫ぶのである。
 私は、東北地方をめぐるバス・ツアーに参加している。皆、その「雪にメッセージを込めよう!」イベントに行ってしまったので、一人、バスのなかでくつろいでいる。後部座席には、老齢の夫婦がいて、本当はこの絶叫に参加したかったようなのだが、奥さんのほうが体調を崩して、二人並んで休んでいる。
「連想ゲームでもしようよ」
 お爺さんのほうが持ちかける。
「いいですよ」
「じゃあ、テーマは戦時中の食べ物ね」
「はい」
「田麩」
「いやいや、田麩は別に戦時中の食べ物じゃないでしょう」
「そう? 乾ぴょうと田麩の細巻を、出征のときに食べたから印象が強いんだけど」
 別に曇天に向かって絶叫しなくても、ある空間にメッセージを込めることはできる。と思う。雪のなかの声も、声そのものによってではなく、声のある空間の履歴から、構築されたものだろう。
by warabannshi | 2012-01-01 10:57 | 夢日記 | Comments(0)



夢日記、読書メモ、レジュメなどの保管場所。
by warabannshi
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
twitter
カテゴリ
全体
翻訳(英→日)
論文・レジュメ
塩谷賢発言集
夢日記
メモ
その他
検索
以前の記事
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 01月
2016年 11月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 03月
2007年 01月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2004年 11月
2004年 08月
2001年 12月
記事ランキング