<   2012年 02月 ( 6 )   > この月の画像一覧
第550夜「ホットカーペット」
 廃墟の一室に、眉墨のような色合いの大きめのホットカーペットが敷かれている。このホットカーペットは底なし沼のように、投げ込まれたもの、足を踏み入れたもの、すべてを飲み込む。私はこの呪われた品物を完全に破壊するため、ピッチャーいっぱいの氷を、そのなかに投げ入れる。
 漏電したホットカーペットは苦悶のあまり、意思を飛ばして、製氷機の氷を掻き集めている私の後頭部に殴りかかる。しかし、意思に殴られたところで、まったく痛くもかゆくもない。
by warabannshi | 2012-02-29 20:10 | 夢日記 | Comments(0)
第549夜「恒星」
 光の射す海底に、長い長い一本の道が敷かれている。平原のような薄緑の海底に、ただ一本だけの道が伸びている。橙色の珊瑚で縁取りされ、白い玉砂利でできたその道は、誰かを歩かせるためというより、むしろ歩くことをためらわせるためのもののようである。私は海面近くを浮かびながら、その道の続く先を眺めている。
 透明度の高い、まるでガスのような海水を掻きながら、離ればなれになった仲間たちのことを思い出す。私を含めて7人の仲間がいたのだが、いまは私一人だ。なぜはぐれたのかは知らない。
 しばらく泳いでいくと、道が五叉路に分かれている。四本の道は、どうやらいずれもぐるっと弧を描いて元のこの交差に戻ってくるようで、本当の道は、依然として、まっすぐ続いているそれのように見える。しかし、ふと左を見やると、1つの恒星と5つの惑星が、じっくりと回っている。そちらに近づくと、さらに惑星の周りには複数の月が回っており、その緻密さにほれぼれとする。ちょっとでもこの岩石に指をふれれば、互いの引力が干渉し合って崩れてしまうだろう。絶妙な均衡。この奇跡を、離ればなれになった仲間たちに伝えるために、私は海底まで降りて、仰向けになる。恒星の放つ光が、海面に反射するのを利用して、私の腹に、太陽写真のようにこれらの惑星とその軌道を焼きつける寸法である。橙色の珊瑚のひとかけらでも手土産にしようと思ったが、そんなものよりこの模型の存在を伝えるほうが貴重である。目を閉じると恒星からの光が、私の瞼をあたためるのが感じられる。
by warabannshi | 2012-02-26 10:11 | 夢日記 | Comments(0)
第548夜「薬液」
 巨大な病院のグラウンドに、友人Fと、彼の運転するクラシック・カーで来ている。
「最近、デスクワーク続きで太った。ちょっと走りたい」
 そう彼が言うので、ついてきたのだが、彼は運転席に座ったまま着替えもせず、持ってきた本を読むのをやめる気配がない。それもそのはず。芝生のグラウンドではすでにちびっ子たちが思い思いに遊んでおり、ランニング・コースを確保できそうもない。それに、グラウンドの真ん中の黒い土には、高さ7メートルほどのパイナップルのような形の草本が、何本も、風もないのに葉を揺らしている。とても気味が悪い。ちびっ子たちは肉厚の草なんて意に介していないようだが、つるんと飲まれてしまいそうに思う。彼らの歓声は、遠いせいか、ほとんど聞こえない。
「シェイプアップもいいけれど、やっぱり上半身を鍛えなければ、かな」
 読んでいた単行本を伏せて、Fが言う。
「突然だね」
「さっき、ハンマーで地面の標的を叩くと、その衝撃で電光が、びゅるびゅるびゅる、って上がっていくアレを見つけたんだけど、アレ、してくるよ」
 そういって、Fは足許をふらつかせながら、河原の方に歩いて行った。手持ちぶさたになってしまったので、病棟を散歩することにする。たしか、ここには精神科医のI先生が勤められていたはずで、仕事場をこっそりと覗き見するのも良いと思う。私は足を速める。
 とうとうI先生の居る8階までやってきた。ところへ、何の前触れもなく、私の傍に置いてあった薬液の瓶が音を立てて砕ける。どす黒い液体の飛沫が、右手の甲や、右頬に点々とはねたのがわかる。実験室の条件反射で何を思う間もなく、近くの蛇口をひねって真水で右手についた薬液を洗い流す。薄墨のような色はいつまでたっても落ちず、やがてそこが内出血をしているのだと思い至る。ずくずくと腫れてくる。
「壊疽ですね」
 看護婦長らしき人が言う。「爪で、皮を破いてしまいなさい。そのほうが治りが早いから」
 私は言われたとおりにする。ふやけた皮はビニールのように剥がれ、信じられないような量のプルーンが乳白色の床に滴り落ちる。
by warabannshi | 2012-02-23 00:23 | 夢日記 | Comments(0)
第547夜「布屋敷の牛頭馬頭」
 ジャガイモほどの小さな牛頭馬頭が五十人ほど、部屋の床に蝟集しており、歩くのは困難を極める。彼らは彼らなりのテリトリーをきっちりと守っているらしく、私がそちらに足を踏み入れると非常にいやな顔をする。しかし、床に投げ出してある私の革ジャンは、牛頭馬頭たちのいるところを通りぬけないと手が届かない。玉砂利を口に含むような思案の末、私は突破することに決める。
 暗いので、誤って彼らを踏みつぶさないかと心配であるが、うまく壁際の本棚につかまり、一歩一歩、進んでいく。本棚の背板には、大正期の浅草風の幻灯がいくつも映されており、うっとりとして、指の位置を確認することを忘れそうになるが、くるぶしのあたりを牛頭馬頭たちが金棒でこづくので、そのたびに我に返る。しかし、間違いなく、私はこの幻灯を一度は見たことがあり、それがいつ、どこでだったのか、神社の集会所だったかと、思い出せそうで、思い出せない。
 ようやく、私は私の革ジャンを着込むことができる。いつものことだが、布屋敷は寒すぎる。
by warabannshi | 2012-02-14 06:54 | 夢日記 | Comments(0)
第546夜「don't trust over 30」
 カラオケボックス、ということになってはいるけれど、構造的にはネットカフェのそれであり、つまり、各部屋を仕切る壁はぺらんぺらんに薄く、一番端の部屋で歌う「地上の星」が、そのまま全室に響き渡るという仕様。真ん中の部屋に友人Kらと三人で入室したのだが、もちろん歌う気は完全に削がれている。
「ジュース、もらってくるよ。何がいい?」
 友人Kの婚約者だという名前の知らない女性が気分を変えようと試みる。
「ウーロン茶」
「ジンジャーエール。あとお手ふきもお願いします」
 なぜか私の右手首には、鳥の糞らしき乾いた汚物がこびりついている。それもたまらなく不愉快だ。
 女性が部屋を出ていったあとで、友人Kが言う。
「一度、やってみたかったんだけど、なにも入力せずに【歌い直し】を押したらどうなるんだろう?」
「000-0000が選曲されるんじゃない?」
 私が投げやりに言うと、友人Kは、彼が言ったとおりにする。
 すると、選曲がなされる。曲名は「don't trust over 30」。
 南国の砂浜の入り江を、上空3メートルほどから見下ろすようにして、海側から撮られたムービーが始まる。ゴンドウクジラが数匹、白い砂が透けるほどにきれいな浅瀬の水を泳いでいる。水の中の黒い鯨と水底の影とがおなじように動くのに、どうも非常に心が惹かれてくる。
 私は風の運んで来る砂のにおいを嗅ぎながら、凡人が詩を作ることができるのは、30歳まで、30歳を過ぎても詩が作れたら、それは彼が詩人たる証拠、という先輩Mの言葉を思い出す。don't trust over 30。Mは今年、32歳になる。
 ゆるやかに曲がっている、ほの白い波打ち際に立つと、それまで気がつかなかった巨大なモノリスが波の合間に浮かんでいる。黒一色、というわけではなく、光沢のある砲金色の表面に、蛍光の紫と緑の筋が、まるで動脈と静脈のように走っている。
(エヴァンゲリオン初号機……)
 私は温い海水の中に足を踏み入れる。モノリスは静かに空中に静止している。間違いなくそれが落下すれば苦もなく押しつぶされて死ぬことはわかっているが、私はそのモノリスの直下に潜る。小さな、板チョコほどの大きさの直方体が、整然と、数千枚、鱗のように、モノリスの底に並んでいる。私は目眩をおこすほど荘厳な気分になる。柔らかい水をえぐるように、深く潜る。
by warabannshi | 2012-02-06 06:22 | 夢日記 | Comments(0)
第545夜「腕相撲」
 間の悪さは、個人の能力に由来するか、という問題。
「違うのかな?」
 熊のようにたくましい女子高生が、腕相撲の最中に、机をはさんだ対戦相手であるところの私に聞いてくる。
「由来しない、と考えた方がいいんじゃない? もし能力だとすると、間の悪い相手が、こちらに悪意をもっているということになるから」
「よっしゃ」
 なにが「よっしゃ」なのかわからない。私が正しい答えを言ったから、「よっしゃ」なのか、それとも腑に落ちる何かがあったから、「よっしゃ」なのか。
 腕相撲をはじめてからずいぶん経つはずだが、まったくの膠着状態で、ヘミングウェイの『老人と海』を思い出す。日曜日の朝、カサブランカの酒屋で、賭け腕相撲をはじめたら、そのまま、月曜日の朝まで、ずっと樽の上で闘いがつづいた、という話。そう、腕相撲は力比べであると同時に、根比べでもある。ヘミングウェイはまったく正しい。私は、ずっと右腕に力を入れ続けているせいで、そろそろ酸欠になりかけている。
「窓を開けようよ、暑いよ」
 私は提案する。
「もういい加減にしようぜ」
 キヨヒコという名であるところの小学校時代の友人が、教室の窓を開けてくれる。キヨヒコは、じつは友人Rであり、彼がなぜそんな七面倒くさい偽名を通そうとしているかはわからない。ほかの友人たちはいつの間にかみんないなくなってしまっている。
「手のひらが汗ですべりそうだからね」
 女子高生はまったく隙をみせることなく、私に同意する。彼女の手のひらの体温が私の肌に伝わって、鉄のように熱い。『老人と海』と違うのは、対戦相手が屈強な大男ではない、というところくらいだ。彼女とは何も賭けていないはずだが、わざと負ければ、指を二、三本、折られるくらいのことにはなるだろう。
by warabannshi | 2012-02-05 09:08 | 夢日記 | Comments(0)



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